本連載は建築と自転車を組み合わせた表現を通じて建築の静的なイメージを覆し、建築と移動が持つ新たな可能性を探求している。引き続き、自転車、光、造形的な模型・物体の相互作用に焦点を当て、どのような表現が可能かを探る。前回に引き続き、カメラオブスキュラ を利用して建築の要素に着目した表現を考える。
検討項目は以下になる。
- 円柱(赤外線カメラ)
- 円柱
- 格子壁
前回同様、円柱の空間を検討項目に含めている。これは、暗闇を360°カメラで撮影した際の解像度の粗さを赤外線カメラを用いることで克服できないか実験することを目的としている。今回使用する赤外線カメラは360°撮影ができないため、これまでの正方形に近い形状では空間を撮影することが難しい。そのため、赤外線カメラを試す模型の形状は直方体に変更した。
さらに、今まで使用してきた黒い自転車はタイヤが小さく、遠出するには時間がかかっていた。今回からクロスバイクを使用して自転車建築の検討を進めていくことにした。
また、せっかく直方体の模型を制作したので、360°カメラでも撮影した。
新素材を取り入れてみた、格子壁案
制作の詳細
- 円柱(赤外線カメラ)
- 円柱
- 格子壁
円柱案は前回と同じく塩ビパイプを用いて柱を制作した。赤外線カメラ用に作成した直方体の模型を用いて、360°カメラの場合の映像も撮影した。格子壁案は透明な3mm厚のアクリル板をレーザーカットし、格子状に加工したものを壁として使用した。格子壁がフィルターとして機能し、入射した映像に興味深い視覚的変化が生じることを期待して作成した。
考察
赤外線カメラで捉えた円柱空間は風景が見当たらなかった。撮影後に赤外線カメラの仕組みを確認したところ、風景の映像が消失した理由を理解した。360°カメラで撮影した方の円柱空間は、空間の形状が直方体に変化したことで視界に奥行きが生まれ、手前から奥へと流れる風景の情報をより明瞭に認識できるようになった。映像の変遷が客観的に観察でき、全体的な風景情報を包括的に捉えることが可能となった。床に円柱の影がおち、円柱が風景の映像を自然光のように感じさせる役割を果たしている。複数の円柱を同時に視界に収めることが可能になったことで、円柱の表面をなめらかに変化する風景の色彩が、より視覚的な面白さに寄与している。
一方で、格子壁の案は全く心に響かなかった。格子壁の配置や向きが適切でなかったようだ。あるいは不透明な素材を使用していれば、格子状に切り取られた映像が壁面に映し出され、独自の空間を表現できたかもしれない。
結局のところ、相変わらず視界は粗いが、円柱案を360°カメラで撮影したおまけの映像が最も優れていた。微小な形状変化やカメラの位置変更だけでも、まだまだ新しい空間体験を発見できそうだ。
P.S.前回記事を元に制作した「風景を採取する自転車建築」という作品が、第39回JIA東海支部設計競技で金賞を受賞した。関係者の皆様に感謝を申し上げる。