筆者がまだ中学生だった10年ほど前、一部の界隈で「ファットバイク」と呼ばれる極太タイヤを履いた自転車が一時的に流行った。ファットバイクは、幅の太いタイヤを使用し、雪や砂の上など、普通のタイヤでは走行困難な場所での使用を目的とする自転車である。当時、街中でこのような自転車を見かけると、街の道路には不釣り合いな外見から滑稽だと思っていた記憶がある。それからしばらくするとファットバイクは街から姿を消した。そんなファットバイクが電動駆動を味方につけ、巷で再び流行り始めている。
昨今のEVファットバイクも依然として、筆者の趣味では全くない。しかしながら、EVファットバイクが自転車とバイクの境界を曖昧にする存在であり、同時にファッションアイテムとしての地位を確立していることは、注目に値するのではないだろうか。
EVファットバイクは、自転車の基本的な構造を保持しながらも、武骨なタイヤとフレーム、電動駆動によって提供される強力な走行能力を持つ。車種によっては原付として登録しなければいけないものもあり、自転車の要素に加え、元来のバイク的な要素を持つ乗り物であり、EVファットバイクはバイクと自転車の境界を曖昧にする存在であるといえよう。
元々ファットバイクは、極太タイヤが原因で実用性が低い乗り物だった。そのため一部の層に支持される利便性を無視した目立つためのファッションアイテムのような形で存在していた。EVファットバイクは電動化による利便性を備えるとともに、車体のデザインは太いタイヤを活かすようなデザインにすることで幅広い層に受け入れられる実用的なファッションアイテムとして地位を確立しつつある。元々、ダサイ乗り物の代表格だったファットバイクが、テクノロジー、ライフスタイルや都市文化の変化に影響されて新しい価値を持ち、”イケてる”乗り物に生まれ変わったことはモビリティの価値を考える上で重要な事例かもしれない。