自転車建築(7)自転車に建築を載せるⅡ

本連載は建築と自転車を組み合わせた表現を通じて建築の静的なイメージを覆し、建築と移動が持つ新たな可能性を探求している。引き続き、自転車、光、造形的な模型・物体の相互作用に焦点を当て、どのような表現が可能かを探る。

今回は自転車建築の原点であるカメラオブスキュラ を出発点とし、建築の要素に着目した自転車建築の表現を考えることにした。ここでいう建築の要素とは、柱や壁、屋根、床などの建築を構成する部材を指す。

360°カメラで撮影した模型内の空間は、空間性を把握しにくいという問題がある。例えば、一辺が30cmの立方体と50cmの立方体では空間のサイズが異なるが、記録映像からはその違いが感じられない。しかし、物体を配置し、スケール感を生み出すことでこの問題は解決できる。柱や壁などの建築要素を活用して空間性を生み出し、今後空間の密度を高めていく上で、それらが空間デザインにどのように寄与するか確かめる。

8本の円柱が立ち並ぶ空間
youtubeで360°動画を見る
L字壁が四隅に立つ空間
youtubeで360°動画を見る

制作の詳細

これまでは、開口部はあくまでも窓であること、模型内が暗すぎると鮮明な映像を記録できないことから、大きめの開口部を設けて模型を作成してきた。今回は建築の要素が映像にどのような影響を与えるのか検証するため、一般的なピンホールカメラと同様に、開口部を小さな穴にした。また、観測対象はいつも校舎(ワークショップ24とソフトピアジャパン)を一周回って見える範囲だったので今回は観測対象を変え、柱案は学校〜大垣駅周辺の商店街、壁案は学校〜揖斐川周辺を走ってみた。

考察

冬は太陽高度が低く、日向と日陰の対比が強調される。その結果、日差しの強さにより、模型内が時折白く輝くことがある。初めは光が入り込まないように対策を考えたが、これも自転車建築の表現として捉え、そのままとすることにした。物体は映像(光)を切り取り、空間内で手前と奥の関係が形成される。手前に切り取られた映像は、底面中央の開口部からの光が照射され、微妙な明るさの違いが手前と奥で生じる。同様に、暗い空間では映像(光)が物体を切り取る。その結果、円柱が浮かんでいるような印象を与える。

物体が映像を切り取る
映像が物体を切り取る

太陽の映り込みは模型内に光源が現れ、様々な方向に円柱の影を作り出す現象が面白く感じられた。

中央の白い円が太陽(たぶん)

壁案の映像における橋渡りのシーンでは、自転車からの左右に配置された柵と鉄骨部材との距離が変移速度の差として顕著に表れ、興味深い光景となっている。

左右の映像の変移速度が異なる

中世の教会建築では絵画と建築が混交しており、柱や壁は装飾で埋め尽くされていた。自転車建築はピンホール現象による映像が絵画のように空間に意味を与えているように思える。これは柱や壁を扱い模型がより建築らしく振る舞い出したことで気づいた視点である。

円柱に塩ビパイプを使用した結果、段ボールにはない滑らかさを表現できたので、今後はもっと自由に素材や形を考えてみても良さそうだ。建築要素が強調されるような素材選びや映像との関係を考えていく。

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA