アラン・チューリングは、現代のコンピュータ科学の父とも称される天才的な数学者である。彼は第二次世界大戦中にエニグマ暗号の解読に成功し、その功績で知られている。彼にはコンピュータの原理とリンクした自転車のエピソードもある。
第二次世界大戦中のイギリスの暗号解読活動の中心地であったブレッチリー・パーク（Bletchley Park）。ここでアラン・チューリングはドイツのエニグマ暗号機やその他の暗号通信を解読する作業を行なっていたとされている。チューリングはこのブレッチリーパークへの通勤に自転車を使っていた。しかし、彼の自転車通勤は風変わりなものだった。花粉症に悩む彼は、自転車に乗る際にガスマスクを着用していたのである。
加えて、彼の自転車はコンピュータのように正確な動作をすることはなく、頻繁にチェーンが外れる不具合を持っていた。天才数学者であるチューリングはこに不具合を修理店に修理を依頼するのではなく、数ヶ月かけて数学的な方法で解決しようと試んだのである。彼は特定のペダリングの間隔やリズムを計算して、チェーンが外れるタイミングを予測しようとした。この方法は、特定の入力（ペダルの力やリズム）に基づいて特定の出力（チェーンが外れるタイミング）を予測するコンピュータの原理と類似するのではないだろうか。
実際、チューリングが開発したチューリングマシンと自転車のチェーンには類似点が見受けられる。自転車のチェーンは、個別のリンクが繋がって一連の動きを作り出し、ペダルの運動を後輪に伝達させることで自転車は前進する。このチェーンリンクの連鎖は、チューリングマシンのセルの連続に類似している。チューリングマシンは、無限に長いテープ上のセルに情報を記録し、ヘッドがセルを読み取りながら移動する。このテープのセルは自転車のチェーンのリンクと同様に、基本的な単位として機能し、連続性を保持している。このような基本的な単位の連鎖さらにそれぞれが一連の複雑な動作を実現する点において両者は、類似性があると言える。
このチェーンの不具合が直接チューリングマシンの誕生につながったかは定かではない。しかし、チューリングの自転車に関するエピソードは、独自の論理的思考と、彼が開発に関わったコンピュータの基本原理との間に興味深い繋がりを示唆しているのではないだろうか。