モビリティの未来、イーロン・マスクが描く火星移住

イーロン・マスク(Elon Musk)、この名前は、モビリティの未来を革新するビジョナリーとして世界中に知られる存在だ。彼の存在が世界のモビリティに与えた影響は計りしれない、彼が指揮を執るTeslaが電気自動車(EV)業界を牽引したことで、今日では至る所で電気自動車が走行する世界が実現した。この事実から、マスクが描く未来がモビリティの未来であると筆者は強く感じる。テスラの公式ウェブサイトにも掲載されている彼の真の目標は、人類を複数の惑星に居住させるという「多惑星種」を実現することだ。マスク氏は自身が経営するTesla、SpaceX、The Boring Company、Neuralinkの各事業が推進するプロジェクトを組み合わせることで、人類の火星移住という壮大なビジョンを現実化しようとしているに違いない。本稿では、モビリティの未来を担うマスク氏が経営する各企業がどのようにして人類の火星移住に寄与しているのかを筆者独自の視点も含めて考察する。さらに、火星移住が現実のものになった場合、火星という惑星に自転車は存在するのかについても探求する。

筆者が予測するTesla、SpaceX、The Boring Company、Neuralinkの各事業の火星における相関図

SpaceX

マスク氏が手掛ける航空宇宙会社であるSpaceXは、再利用可能なロケットと宇宙船の製造・打ち上げにより、航空宇宙産業の歴史に新たなページを刻んでいる。2002年の設立以降、同社は一連の画期的な成果を挙げており、Falcon 1、Falcon 9、Falcon Heavy、そして最新のStarshipというロケット群は、打ち上げ後に地球へ戻って再利用するという新たなパラダイムを築き上げた。Dragon宇宙船の開発を通じて、国際宇宙ステーションへの貨物輸送や有人ミッションを実現し、また火星移住のための技術を試すプラットフォームとしても機能している。これらの取り組みを通じて、スペースXは火星移住という壮大なビジョンを具体的な形にしている。着実に火星への移住の可能性が高まってきていると言えるだろう。

Starlinkは、数千の衛星が地球の低周回軌道に配置され、ここから全地球規模での高速インターネット接続を提供するプロジェクトである。そして、このStarlinkは、火星移住者にとっても極めて重要なインフラを提供する可能性を秘めていると考えられる。もし火星に人類が定住する日が来るなら、インターネット接続が必要となる。おそらく、通信、科学的研究、エンターテイメント、そして地球との接続、これら全てがStarlinkによって支えられるのではないだろうか。私たちが普段インターネットを利用するように、未来の火星移住者たちもStarlinkに接続して、火星と地球間のインターネット通信を実現するかもしれない。

The Boring Company

The Boring Companyはマスク氏が2016年に設立した地下トンネル掘削会社である。The Boring Companyは、地下トンネル掘削技術の研究開発に注力し、近年は超高速トンネルLOOPを利用した大規模な地下交通ネットワークの実現を目指している。

The Boring Companyは、本物の火炎放射器を販売するなど、何かと世間を騒がす会社である。しかしながら、The Boring Companyこそがマスク氏の掲げる人類の火星移住計画における要の事業だと筆者は考えている。それは火星移住時に、地下コロニーでの生活が想定されているからだ。火星の表面は、地球と比べて大気が極めて薄く、強力な放射線が常に降り注ぐ環境である。人間がそこで生活するためには、この放射線から身を守る手段が不可欠だ。マスク氏もこの点について火星は「修理が必要な家」だと主張している。

以前からマスク氏は火星での居住環境について地下を想定する趣旨の発言をしている。国際宇宙ステーション研究開発(ISSR&D)会議で、「望むなら都市全体を丸ごと地下に建設することもできる。火星で掘削技術を正しく使えば、地下にたくさんの施設を造ることが可能だ」と語り、AI研究者レックス・フリードマン氏のポッドキャストに出演した際には「太陽光を利用した地下の水耕栽培農場を備えた自給自足のコロニーを建設したい」と語っている。スペースXの社長兼最高執行責任者(COO)であるグウィン・ショットウェルもフューチャリズムのインタビューで「The Boring Companyは火星にトンネルを掘るという計画を真剣に検討している。」と述べている。

マスク氏はThe Boring Companyの採掘技術によって、火星の地下に住居スペースを作り出すことによって、火星を人類が生活できるように環境改造、つまりテラフォーミングしようとしているのだ。そしてThe Boring Companyという会社は火星テラフォーミングにおける「In-Situ Resource Utilization」(ISRU)を成功させるための技術を開発するための側面があると筆者は考える。ISRUとは、宇宙探査の過程で目的地の天体(この場合、火星)に存在する自然資源を利用するアプローチのことだ。

火星の地表を採掘し、地下にコロニーを作ることで地表は自然の遮蔽物となり、放射線から人類を保護できる。さらにThe Boring Companyは、掘削した土を再利用して高品質なレンガを生成する技術も開発し、建築資材として再利用することも可能にした。この技術を使うことでコロニーの建設資材は火星の土で賄える可能性もある。火星そのものを利用し、居住環境を構築することが出来れば、建設に必要な大量の資源を地球から運ぶというコストとリスクを大幅に削減できる 。このようにThe Boring Companyは、火星のテラフォーミングの際には重要な役割を果たすだろう。

Tesla

Teslaはマスク氏の出資の元、マーティン・エバーハードとマーク・ターペニングの2人で創業された。(現在2人はマスク氏によって会社を追放されている。)当初の社名はテスラモーターズだった。この社名は、マスク氏が尊敬している発明家ニコラ・テスラに敬意を表して付けられたとされている。

マスク氏はニコラ・テスラにただ敬意を払うだけではなく、Teslaによってニコラ・テスラの壮大な構想を引き継ごうとしているのではないかと筆者は考えている。ニコラ・テスラは、生前に「世界システム」という地球の磁場を利用し、電気振動と共鳴させることで巨大なテスラ・コイルで発生させた電力エネルギーを世界中にを無線で送電するシステムの構想をしていた。その後2006年11月に、マサチューセッツ工科大学は電磁界共鳴方式を用いて、2メートル離れた電球に明かりを灯す実験に成功している。

世界システムとは、簡潔に言うと、無線送電システムである。この無線送電システムをマスク氏はテスラ社を核にして火星で実現しようとしているのではないかと筆者個人は考えているわけだ。しかしながら火星は世界システムの実現で不可欠である磁場を持っていない。そこでマスク氏は、人類最古の輸送手段とも言える「車輪」のついた電気自動車(EV)を利用することを選んだのかもしれない。

2016年にマスク氏はマスタープラン・パート2( Master Plan Part Deux)で「テスラ社をエネルギー企業にする」というビジョンを掲げた。そのビジョンはSolarCityの買収により、さらに具現化された。Teslaの電気自動車(EV)は大量の電気を蓄積することができる。さらにPowerpackやPowerwallを介してエネルギーを蓄積、利用することも可能である。さらにテスラのEVはスーパーチャージャーという高速充電設備を使用して、短時間でバッテリーを充電できる。Teslaのこれらのシステム群こそが火星でのエネルギー供給の問題を解決するための無線送電システムとして機能するのではないだろうか。

マスク氏のビジョンによれば、火星では太陽光発電が主要な電力源として活用するとされているが、その具体的な運用方法は明かされていない。筆者の予想としては、火星の地表に設置されたソーラーパネルを通じて発電が行われ、その電力は蓄電池に貯蔵される。そして、この電力は電気自動車(EV)に供給、電気自動車は地下トンネルを巡回しながら、蓄積された電力を地下のコロニーに運ぶ。この循環システムにより、エネルギーを直接居住地まで運搬するのではないかと考えている。

上記システムだとワイヤレス送電システムというよりは輸送システムと呼ぶほうが適切かもしれない。しかし、電磁波に乗せて電力を運ぶ世界システムも一種の輸送と解釈できるため、このシステムは、世界システムに近い存在と言えるだろう。マスク氏がニコラテスラの意思を継ぎ、世界システムのような無線送電システムを火星に築く考えは、現時点では筆者の根拠の薄い仮説かもしれない。しかし、有線送電にはワイヤーやケーブル等の大量の資材と大規模な施工が必要な点、The Boring Companyが地下輸送システムに力を入れている点、火星の地表で頻繁に起こる砂嵐の問題等を鑑みると、上記システムは可能性の一つとして考えられるはずだ。

Neuralink

マスク氏が2016年に立ち上げたNeuralinkは、SF映画でしか見ることがなかった、脳とコンピュータの直接接続を現実のものにしようとする企業である。これは、AIの進歩によって人間が劣勢に立たされることを防ぐための、新たなマスク式解決策とも言える。

Neuralinkの技術は、火星の居住者の生活の質を向上させる可能性を持っている。神経系の問題や、長期間の宇宙旅行が人体に及ぼす影響に対する対策として、Neuralinkの技術が利用されることが考えられる。また、この技術により、脳幹通信や一人の人間が複数のロボットやアンドロイドを同時に制御することが可能になるかもしれない。

マスク氏は実際、火星開発にアンドロイドを活用する可能性を示唆してる。リドリー・スコット監督の映画「プロメテウス」には、宇宙船で人間が創り出した高度な知能を持ったアンドロイドに殺される場面がある。このようなシナリオを思い浮かべると、宇宙空間でのAIを搭載したアンドロイドやロボットの運用に関しては個人的に恐怖を感じてしまう。これがリアルになる日が来るとしたら、私たちはどう対処すべきか。Neuralinkがその答えを握っているかもしれない。

「多惑星種」と自転車

近い未来、マスク氏の指揮のもと人類が火星に降り立ち、「多惑星種」としての存在を確立する日が来ると、筆者は信じている。そうなった場合、やはり気になるのは、私たち地球人の日常生活を支えている自転車が火星にも存在するのかだ。私はこれまでの考察から火星にも自転車が存在し、日常生活を支える可能性もあるのではないかと考えている。

火星移住後、日常生活を地下コロニーで過ごすことになった場合、比較的短距離の移動に限られることが考えられる。日常生活の比較的短距離のとして効率的な移動手段といえば自転車である。維持費やエネルギーコストが低く、火星への輸送に必要な物資として比較的小型であるという特性から、火星の地下コロニー内での移動には自転車の使用が選択肢としてあるのではないだろうか。また、アンドロイドが肉体労働を担当することになれば、人間の運動時間は大幅に減少する可能性がある。そのため、火星のコロニーにおける運動不足を解消する手段としても、自転車は優れていると言える。実際、国際宇宙ステーション(ISS)の宇宙飛行士はエルゴメーターなどの運動器具を使用し、適度な運動を行っている。したがって、「多惑星種」となった人間が自転車を漕ぐ可能性があると考えられる。

「アンドロイドは自転車の夢を見るか。」

火星では人間だけでなく、アンドロイドも自転車を使う可能性はないだろうか。Teslaが発表したアンドロイド、Optimusは、人間の作業を代行する人型ロボットとして設計されている。上記のデモンストレーション動画ではOptimusがじょうろを使って植物に水をやる様子や、オフィスで荷物を運んだり、工場で資材を移動させる様子が見られる。Optimusは全身に28のアクチュエータを持ち、指の関節も独立して稼働することで、単純な反復作業から繊細な作業まで、幅広いタスクをこなせるように設計されている。形状はもちろん、性能も限りなく人間に近いアンドロイドである。

自転車は、人間の力を最大限に活用することが可能なエネルギー効率の良い移動手段である。もしも形状、性能どちらも人間に近いアンドロイドが開発できたならば、そのアンドロイドの移動にも自転車は理想的な選択肢として挙げられるのではないだろうか。また、Optimusの知的制御には自動運転技術で培われたAIオートパイロットが使用されており、様々なセンサーやカメラを搭載しています。これにより、周囲の環境を認識することが出来る。Optimusのようなアンドロイドと自転車を組み合わせた場合、優れた火星探査機として機能するかもしれない。火星の地形に応じて、自転車を駆使した効率的な移動、徒歩による移動を自由に切り替えられるようになれば、様々なシナリオでの活用が期待できる。

「多惑星種」を現実化させるという壮大なビジョンを掲げるマスク氏。彼の手がける企業たちは、それぞれが彼のビジョンのピースとして機能し、火星移住への道のりを着実に歩んでいることが伺えた。さらに、その道のりの予測からは、移住後の火星に自転車が存在する可能性も見出せた。火星移住によって、人間が「多惑星種」になっても、人間だということは変わらない。火星という、地球と全く違う環境でも、人間らしく生きるための手段として、自転車のようなものを用意するべきだと考える。

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