本連載では、建築と自転車を組み合わせた表現を通じて建築の静的なイメージを覆し、建築と移動が持つ新たな可能性を探求している。
前回に引き続き、自転車、光、造形的な模型・物体の相互作用に焦点を当て、どのような表現が可能かを探求する。今まではシンプルな立方体の模型に対して、開口部のサイズや配置が空間の質にどのような影響を与えるかを検討してきた。今回は開口部ではなく、物体自体の形状に注目して、自転車や光との相互作用を明らかにする。具体的には立方体以外の形態である、球体、円筒、塔の3種類の模型を制作し、それらの形状と光の像に関して研究を行う。





制作の詳細
前回の検討で、自転車の進行方向に対する模型の左右壁面に開口を設けた場合に空間にスペクタクル性が生まれることを確認できたので、今回も基本的に模型の左右壁面に開口を設けることにした。
以下が検討した3つの模型サイズと素材だ。
- 球体案:直径250mm程度の樹脂製のボウルを2つ重ねて球体を作り、段ボールで覆う。
- 円筒案:直径300mm、高さ500mmの段ボールの円筒。
- 塔案:一辺が300mm、250mm、200mm、150mmの段ボールの立方体を積み重ねた塔。
日差しの強さが空間に与える影響の変化を確かめるために、同日の昼と夕方の2回走行した。ただし、球体案の夕方のデータは破損していたため掲載していない。
考察
球体案
穴のサイズや透過を防ぐための段ボール箱との振動によるズレなど、粗雑な作りになってしまった。その結果、当初狙っていたような像を取り込むような空間は生み出せなかったが、光を透過する素材による新しい空間の表現が生まれていた。球体の粗雑なつくりは改善しなければならないが、幻想的な光景を作り出す魅力的なポテンシャルがある。
円筒案
縦長の模型は走行中の振動でたわみ、光がボールのように跳ねる様子が観察できる。昼間に撮影した映像では、光の像が鮮やかに壁面に映し出され、特に天井付近が鮮烈な緑色に染まっている光景が捉えられる。
塔案
井戸の底にいるかのような空間の深淵さがある。視線を上に向けると、遠くに走る光の軌跡と立体的な木漏れ日のような光が交錯し、空間が鮮やかに明滅する。
円筒案と塔案の両方において、日光の強さが光の像の輪郭や色の強さにダイレクトに反映されている。今後撮影する時は、可能な限り昼間に走ることが良い結果を得るためのポイントとなりそうである。この映像作品は天候とも関係性をもつ点で興味深い。
形状の複雑さはそのまま光の複雑さに直結している。また、これまでの形状と開口に焦点を当てていた段ボールを用いた模型作りから、光を透過するボウルを用いた球体案によって、偶然に素材という変数がもたらされた。これらの表現をさらに試行錯誤していくことで、まだまだ新しい発見がありそうだ。
次回は、様々な素材や複雑な形状を試すために既製品を用いた検討を行う。より多くのパターンを試すことで、さらなる知見を得る。