自転車建築(1)自転車に建築を載せる

もし建築が動いたら、どのような空間体験が可能か?

本連載では、建築と自転車を組み合わせた表現を通じて建築の静的なイメージを覆し、建築と移動が持つ新たな可能性を探求する。

その初歩的な試みとして、360°カメラを内部に設置した建築模型を自転車の台車に取り付けて街中を走行する作品を制作した。建築と自転車が融合したインタラクティブな手法を通じて、光が空間を駆け巡り、開口から見える風景は激しく変化するなど、外環境の要素が空間を彩るエフェクトに変換される。

天井開口バージョンでは、一方向からしか光が入らないので太陽の位置がわかる。
HMDで見られるように再撮影したもの。
8Kカメラで撮影
壁面開口バージョンは、図らずもカメラ・オブスキュラっぽくなっている?
HMDで見られるように再撮影したもの。
8Kカメラで撮影

動機

自転車と建築の組み合わせとしてまず思い浮かんだのが移動する建築である。通常、太陽の位置の変化により、ゆっくりと屋内の陰影が変化するが、建築自体が移動する場合は、周囲の環境や建築の太陽に対する位置関係の変動により、屋内の陰影はいかに変遷するのだろうか。さらに、建築の移動に伴い開口から見える風景も変化する。こうした敷地から動かない建築の前提を覆す表現に対して強い関心を抱き、実験するに至った。

リファレンス

制作の詳細

中古で購入した自転車の台が斜めに曲がっていたため、水平になるように360°カメラと建築模型を固定する台を制作した。

今回は自転車を使用する意義を検証するため、建築模型の形状と自転車の相互作用に着目して実験を行った。

具体的には、模型の開口位置が操縦者にどのような影響を働きかけるのか、また、空間の見え方の違いを確認するため、天井に1つの開口をもつ模型と各壁面に1つずつの開口を持つ模型の2種類の開口位置が異なる模型で実験を行う。模型は走行時に支障がなく、カメラ撮影で一定の空間を感じられるサイズの立方体W30cm×H30cm×D30cmで作成した。

考察

風景の採取・観測をしているという感覚が生まれることが面白かった。自分が目にしている情報がただカメラに記録されるのではなく、模型がフィルターのように機能し、外環境から一部が取捨選択され模型内に影響を与えるため、どのような空間を撮影できているのかワクワクしながら走った。

開口部の位置は操縦者の意思決定に影響を与え、記録中の風景を想像しながら通る場所を選ぶ意識を醸成する。例えば、天井開口バージョンでは、樹木によって作られる明暗の変化を求めたり、壁面開口のバージョンでは並木や建物など、両側の物体によって光を遮ることで明暗の変化を作ろうとする意識が働く。

つまり、道を選びながら走行することが模型の空間を形作ることにつながり、時間軸をもつ空間作品を作り出している。自転車と建築模型の相互作用が強く感じられる作品だ。

一方で、いくつかの改善点も見つかった。

  • 風景が見えづらかったため、開口を大きくする必要がある。
  • 空間性を感じにくかったため、模型を少し大きくすることで空間性を強調する。
  • DOMEモードでの撮影により、空間が歪んで違和感が強かったため、次回はVRモードでの撮影を行う。

次回の展開

最終的には模型内に人や自転車を配置し、スケールを感じられる空間作りを行い、記録した映像を用いてHMDで動く建築空間を体験することを目指しているが、今回の実験から、その前段階として様々なアプローチを試すことができると感じた。

次回は改善点で記述した内容を反映させた案と、カメラ・オブスキュラ案にも取り組む予定である。

【追記】本記事の動画をHMDで見たいという意見を頂いたので、同じ建築模型を使用して別の360°カメラで再撮影したものをアップした。HMDを通して見ると、表現としての様々な問題点が露わになってくる。(2023年6月9日)

【追記】8Kで撮影したものをアップした。(2023年6月30日)

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