身体と動き(その拡張性や認知のズレ)について思いを巡らし、過去に実施したワークショップの経験を反芻してみた。
2018年11月「養老アート・ピクニック」というイベントでワークショップ形式の作品『パンタグラフィー 線で描かれるもの』を実施した。パンタグラフとは、ギリシア語語源は 「すべてを(παντ-)かくもの(γραφ)」。17世紀初頭(1603年)Christoph Scheiner(クリストフ・シャイナー:ドイツ:天文学者)によって発明された製図技術である。
体験のプロセスと運営手順は以下の通り実施した。
- 体験の概要(撮影 → プリント → パンタグラフによるトレース → 展示)
- 撮影(上半身+下半身):写真は上下で親子・男女など組み合わせ自由
- 写真を選んで上下2枚をA4サイズでプリント
- テーブルに写真をガイドに沿って配置
- 透明ロール紙を養生テープで固定し、テーブルの長さでカット
- テーブルの中心にパンタグラフをピン3個で固定
- ペンの色を確認(赤・緑・青):プラスドライバーで交換
- 下半身:正方形の写真枠からトレース
- 上半身:正方形の写真枠からトレース
- 透明ロール紙をテーブルからテント外側に貼り直して展示する
A4サイズのプリントから、トレースした線画は4倍 = A0(1188 x 840mm) x 2枚に拡大される。
当時のメモによる実施から得られた気づきは以下の通り。
- トレースする指先の動きと、パンタグラフの先についたペンで描かれる線の視覚的なズレ(手と目の身体的なギャップから起こる面白さ)に驚かれる印象が多くあった。
- 年齢に関係なく描かれる線画の統一感とその中に現れる個性(差異)を見つけられ、鑑賞者にも体験者にも気づきを促すことができた。
- 写真から抽出する線画(重なる線の質量)の抽象度(何をなぞり、何を省くか)の個人差は何によって生まれるのか
- 写真の「瞬間的な記録」と、線画の「連続的な軌跡の再現」との「プロセス」の比較の面白さ
- 撮影される写真(自画像)の客観性と受動性から、トレースされた線画の主観性と能動性へ転換される面白さ
- 撮られる身体、取り出す身体、抽出(情報量の選択)することで、認識が変わり、人が味わうことができる余地が生まれる
- 上半身と下半身の組み合わせの面白さ
参考:Pantographice seu ars delineandi (Rom 1631) IMSS Digital Library