自転車屋さんの高橋くんの自転車屋さんに高橋くんはいるのか?

自転車屋さんの高橋くん」は松虫あられによる漫画(2019〜)であり、それを原作とするテレビ・ドラマ(2022)。自転車の物語となれば否応なく気になってくる。テレビ・ドラマは昨年11月から12月にかけて全8話が放映されていた。しかし、筆者はテレビを持っておらず、番組を見ることはなかった 。だがYouTubeに予告編などがあり、Netflixではディレクターズ・カット版が公開されている。

そのディレクターズ・カット版は軽妙なテンポで物語が進む。感情の機微を織り交ぜて、時には笑い、時には考えさせられる。だが、やがて違和感を覚えるようになる。ほとんど自転車が登場しないのだ。オープニング・タイトルではヒロイン、パン子が颯爽とママチャリに乗っている。本編では僅かながらパン子が商店街でペダルを漕ぐこともある。それ以外は押し歩く程度で回数も少ない。

パン子(テレビ・ドラマより)

さらに主人公である自転車屋さんの高橋くん、ヤンキーの遼平は自転車を修理する素振りだけで、軽トラックに乗っても自転車に乗ることはない。これはもしかして自転車に乗れない自転車屋へのオーマジュだろうか。自転車への機械工的偏愛もなければ、郊外を2人で自転車デートするエピソードもない。ただただ昭和風情の街角で人間模様が繰り広げられる。タイトルに偽りアリだ。

遼平(テレビ・ドラマより)

このことは原作である漫画でも同様で、僅かにしか自転車は描かれない。現時点で5巻ある単行本の表紙も自転車が描かれているのは第1巻だけと寂しい限り。漫画自体はまだ完結していないので、今後の展開に期待したい。ただ、インタビューで作者が自転車を語ることは少ない。制作の動機は修理に行った自転車屋さんがイケメンだったからで、自転車に思い入れはない様子。

漫画単行本第1巻の表紙(左)、漫画でのCYCLE SHOPタカハシ(右)

ちなみに、作者の出身地とのことで、筆者が住む大垣市が舞台になっている。漫画ではそれほどでもないが、テレビ・ドラマではよく知った場所が次々と登場する。ロケ地紹介動画は現実と虚構が入り混じっていて興味深い。さらにドラマの市の広報にも活用されており、いわゆる聖地巡りマップも作られている。ただし、一番の聖地であろう高橋くんの自転車屋さんは掲載されていない。

しかしロケが行われた自転車店は実在する。筆者も利用したことがある。もっともGoogleマップで「自転車屋さんの高橋くん」や「CYCLE SHOP たかはし」で検索しても見つからない。一方で実在する店舗の写真にはドラマのシーンが数多く投稿されていて、遼平やパン子がそこにいるかのようだ。ここでも現実と虚構が入り混じる。自転車屋さんの高橋くんの自転車屋さんに高橋くんはいるに違いない。

Googleマップでの検索(左)、ロケが行われた自転車店(右)

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