Mr.ビーンはイギリスの大人気コメディTV番組であり、ローワン・アトキンソンが怪演するキャラクタ。言葉ではなく極端に歪ませた表情と身振りで爆笑を引き起こし、先輩格のモンティ・パイソン同様に際どいブラック・ジョークを撒き散らす。そんなMr.ビーンの最終作となった劇場映画「Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!」のパッケージでは、レッド・カーペットを自転車で走っている。これは期待せざるを得ない。
物語は雨が降りしきる寒々としたロンドンから華やかな海辺のバカンス地カンヌへ至るロード・ムービー。教会のクジで当てた旅行券で始まり、副賞で得たビデオカメラが伏線を繋いでいく。誘拐疑惑をかけられる映画監督の息子や屈託のない端役女優を巻き込んでの珍道中は二転三転しながらも、一行は映画祭が開かれるカンヌへ。そして退屈な上映映画を大喝采に変えての大団円を迎える。
さて、自転車が活躍するのは中盤の十数分間に過ぎない。まず、バスのチケットを奪った鶏を載せたトラックを、これまた盗んだママチャリで追い掛ける。必死でペダルを漕ぐものの、当然のことながら無慈悲に引き離される。そこへ通りかかったジープの荷台を手で掴んで高速曳航。そしてカタパルトよろしく高速で射出されれば、集団走行するロード・レーサーをあざやかに追い抜く。
次いで道端に置いたママチャリは何故か戦車に轢き潰される。そこで通り掛かったモペット(エンジン付き自転車)にヒッチハイクを頼んでおきながら、隙を見るや車両を奪って走り出す。ところがエンジンでは歩くより遅い速度しか出ない。すぐに持ち主に追いつかれ、弾き飛ばされてしまう。急いで逃走するのに何故ペダルを漕がないのか理解に苦しむが、当の本人は悪びれる様子もない。
この連続する2つのシーンは滑稽な展開であるとともに、なんだか深読みしたくなる寓意性に満ちている。いずれも人の力でペダルを漕ぐこととエンジンの力を借りることの対比的な喜悲劇だ。それで言えば、映画の前半は鉄道に翻弄され、後半は自動車の運転に疲労困憊する。その間に登場する自転車だけは自らの意思でペダルを漕いでいる。そしてすぐにジープやモペットに頼る情けなさがMr. ビーンらしい。