快楽原則 20: 香港

12月下旬、ペナン島の後はストップ・オーバーで香港に滞在した。これまでに何度か訪れた印象では、香港は極端な過密都市であり、道路は凄まじい交通渋滞、自転車なんて危険極まりないと思っていた。ところが、少し調べてみると郊外にはサイクリング・コースがある。その中でも定番らしいNew Territories Cycle Track Networkの沙田(Sha Tin)〜大埔(Tai Po)ルートを往復した。

地下鉄(MTR)の沙田(Sha Tin)駅で降り立ち、近くの自転車店、龍記單車(Lung Kee)ロード・バイクを借りる。1日200香港ドル(約4,000円)。すぐに自転車専用道があり、城門河(Shing Mun River)沿いのサイクリング・ロードへと繋がる。そして大鵬湾(Tolo Harbour)を回って大埔(Tai Po)まで25kmほど。平坦で道幅が広く路面も良く、川や海沿いの開放的な景色を走る快楽はこの上ない。

もっともルートの後半は起伏が多くなり、路面が荒れてくる。車道を横切る箇所も増えるので要注意。目的地の大埔に着くと、何百台と用意されたレンタル自転車に驚かされる。家庭車という四輪自転車も多い。休日の需要を満たす数が揃えられているのだろう。人口は750万人ながら密集度が東京の2倍にもなる香港の有り様を示している。ただ、この日は平日だったので閑散としていた。

この辺りの名勝は船灣淡水湖(Plover Cove Reservoir )。1963年に入江を堰き止めて海水を排水し、川の水を溜めて作られた淡水湖。香港の水資源を確保するための地形大改造だ。台湾の日月潭日本の徳山湖と同じく、当時周辺に住んでいた人々は追い払われている。そんな歴史とは裏腹に、広々とした風景は美しく、ダムの上の全長2.1kmの直線道路はのんびりと楽しめる。

もうひとつ関心を持っていたのは、このルートの中ほどにある宏福苑(Wang Fuk Court)、港湾を一望する高級高層住宅、いわゆるタワー・マンションだ。1ヵ月ほど前に大規模な火災が発生し、8棟のうち7棟が焼失、176人が死亡している。現場は今も封鎖されており、黒く焼きただれた建物と出火の原因となった緑色のネットの残骸が生々しい。手向けられた花の前で手を合わす。

この火災は外壁改修工事中に発生し、杜撰な手抜き工事とそれを引き起こした汚職が指摘されている。2008年の康和苑(Cornwall Court)火災とともに、かつての民主技術主義が形式官僚主義に退行したように思える。1997年の中国への香港返還に始まり、2014年の雨傘革命の敗退が拍車をかける。それでもICAC(汚職捜査機関)が存在し、批判的な世論が黙認されているのが救いだろうか。

上海浦東国際空港の出国ゲート
(香港、マカオ、台湾は中国の国内線ではない)

政治体制については詳しくないものの、ChatGPTもClaudeもGeminiも使えなかったことで香港の中国化を意識せざるを得なかった。これはOpenAIなど事業者側の判断によるものらしい。つまり、香港と中国とを明確に区別できないのだろう。ちなみに、GrokやGoogleマップなどは使えたので九死に一生を得た思い。何のことはない、アメリカの情報サービスへの強い依存を思い知らされた次第。

このように香港郊外のライドでは香港の明暗を感じることになった。一方、市街中心地では自転車に乗ることはなかった。以前より緩和されたようでも路上はクルマが多く、デリバリーなどの働く自転車を見かける程度。シェアリングやレンタルも郊外だけだ。それでも公園で自転車を走らせている人を見かけると嬉しくなる。この地でも過密化と効率化だけではないことを再認識できるからだろう。

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