床を拭いたり皿を洗うように、普段、自転車を触りながら他のことを考える。家族や友達のことだったり、仕事のことだったり、アメリカなどの大学でのパレスチナ連帯キャンプのことだったり(先日、この主題でリリースされたマックルモアのラップ曲Hind’s Hallを日本語訳した)。このところ主に触っている自転車は近所の方が処分するというので譲り受けた古いロードバイクで、いわゆる「ディングルスピード」仕様で組んでいる。
ディングルスピードとは変速機のないシングルスピードを二組(ダブル)で搭載した駆動系のことだ。チェーンが引ける「ロードエンド」の車体なので初めは最もシンプルで軽量化の効果も大きいシングルを検討したが、ロードバイクとしての進む楽しさをちょっと活かそうとすると山での登坂がきつくなるジレンマを考慮し、ディングルで平坦(普段乗り)用と山(探索)用の二通りに分けることした。
リア変速機を残した状態で日頃の移動に使い、自分に合いそうなギア比を割り出す。アウターチェーンリングはひとまず手元にあった42T。ディングルは両方のモードでチェーンリングとコグの歯数の和を揃えるのが基本で、二通りのギア比の組み合わせは何でもありではない。使う頻度の高い平坦(普段乗り)用を先に決めてゆき、42/18=2.33に落ち着いた(18TコグはReverse Componentsの品で2000円くらい)。この目的ではかなり軽い。
山用はどうするか。クランクのBCDは130のため、インナーチェーンリングは普通に出回っている最小サイズである39T(38Tもあるがレア)を選択(中古で1000円しなかった)。3T減った分をコグに足すと21Tだ(Surlyのコグを入手、これは5000円くらいする)。ギア比は39/21=1.857となる(ぼちぼち軽いが、今時のロードの最も軽いギアよりはずっと重い)。和が等しくても実際こちらはチェーンが少し余るので、39/22=1.77もアリ(22TはSurlyが出しているカセット用シングルコグで最大)。チェーン長の合わせ方など全般的な話は他のサイトを参照してほしい。
チェーンリング/コグ | ギア比(ざっくりとした数字) |
42/17(9速11-25の5段目) | 2.47 |
42/18 | 2.33 平坦用 |
42/19(9速11-25の4段目) | 2.21 |
42/20 | 2.1 |
42/21(9速11-25の3段目) | 2.0 |
39/20 | 1.95 |
39/21 | 1.857 山用 |
42/23(9速11-25の2段目) | 1.826 |
39/22 | 1.77 |
42/25(9速11-25の1段目) | 1.68 |
そんなこんなで丘陵地帯に持ち込んで乗り回してみたら、市街地で出したつもりでいたポジションが全然だめだった。しかも平坦用モードしか使わなかった。チェーンの掛け替えは後輪の固定を緩めて手で行う。時間はさほどかからないが手が汚れるのでちょっとだけめんどくさく、重いままでどこまでいけるか、みたいな方向に思考がスライドする。色々と合ってない状態ながら、とにかく人間が頑張るしかないというのはシンプルで、総合的に気楽だ。壊れる部品が少ないのもいい。
ポジションの出し直しをやって、またどこか山か丘陵に行って上手くいっているか確かめよう。そうして、身体とフィールドの間にそれが介在していることをつい忘れてしまうような「ゼロ・バイク」に近づける。こだわるのは、忘れるため。足にも地面にもよく馴染んだ、履いていることを意識させない靴、そんな自転車。この車体でそれができるかどうかはわからない。でも上手くいかなくても、結局は大した問題じゃない。今の時期も世界はとても美しいから、そこに入っていくのを手伝ってもらえるだけで最高だ。
次はまずハンドルバーかな。中古ショップを覗いてみよう。