Hangar (4) – 災害時における自転車格納庫の新たな役割

1995年、寒い明け方に阪神淡路大震災が発生した。以来、私たちはいかに脆弱な日常のインフラに依存しているかを思い知らされ続けている。水道、電気、ガスといったライフラインの断絶はもちろんのこと、通学路、通勤路として当たり前のように利用していた道路や鉄道の大規模な破壊が私たちの移動手段を一変させる可能性と共に、私たちの生活は成り立っている。

自然の力そのものを阻止する術を準備することは、現実的ではない。気候や地震によって引き起こされる状況に対して、人が被る被害を少しでも減らしていくという考え方、いわば減災は日頃からの準備によってしか実現することは出来ない。災害が起こったらどうなってしまうかと心配するのではなく、災害時に何をすることが出来るのかをイメージすることでもある。自転車格納庫はそのイメージを組み上げることにも貢献できる可能性がある。

災害をイメージする最も身近な機会は、地域における防災訓練活動である。

地域防災訓練の様子

防災訓練は地域だけではなく、学校や企業などでも実施されている。しかし、災害というものは一つの組織内のみに被害をもたらすようなものではない。中広域にわたって、様々な立場の人が様々な状況のなかで遭遇するのである。その点では、ある一定の地域を対象とした防災活動は、実際に災害時に起こることを想定したトレーニングも取り入れることができるだろう。近隣に住んでいる人もいれば、仕事場にやってきている人もいる。住居が被災するのか、仕事場や学び場が被災するのか、立場に寄って優先されることも変わってくる。

自転車生活をテーマに発行されているフリーペーパーの「Cycle」で、「防災と自転車」という特集が組まれている。被災した地域で活躍する自転車に焦点が当てられ、様々な事例や、非常時において自転車が有効な場面などが紹介されている。

筆者が所属している京都市下京区の防災活動では、訓練会場に京都市で予想されうる地震が、断層ごとに想定されるシーンを紹介するパネル展示が実施された。

パネル展示

防災訓練の準備時や訓練当日には、「防災と自転車」特集号のCycleを配布し、災害時には避難所となる本中学校跡の校舎に、災害時に移動手段となったり、物資の輸送の助けと鳴る自転車が備えられることのイメージを持つきっかけづくりを目指して展示を行った。

フリーペーパーの配布

避難所には、災害支援物資の備蓄倉庫が備えられている。自宅で被災して避難所に逃れてくる人にとっては、避難所は仮の住居としての役割が求められる。一方で、仕事のためのその地域にやってくる人にとって別の場所に自宅があり、そこへ帰る手段が必要となる。しかし、自身のみならず悪天候による災害時には、多くの公共交通機関が不通となったり、道路が非常事態となって自動車がスムーズに移動できなくなることが多い。このような場合、避難所には食べ物や水や寝具などの他に、移動手段が備わっている必要があるのではないか。

政府が進める自転車活用推進計画においても、自転車活用推進に向けた取り組みの中で、災害時における自転車の有効活用に資する体制の整備が挙げられている。自転車ネットワークには、生活における通勤や通学のルート他、地域振興や観光のインフラとしてサイクリングルートも含まれている。これに、災害時において自転車が移動可能であり、自動車やバス、鉄道といった交通インフラを代替するための都市機能を含めていくことは大きな意味のあることである。

防災倉庫に自転車を備えるというアプローチもあれば、自転車格納庫が防災時に必要とされるネットワークのノードとなることもまた、これからの自転車格納庫を考える上での重要な視点の一つになりうる。普段は人がお茶を飲みながら談話していたり、仕事をしていたりするような場所と、自転車格納庫との区別を曖昧にしていくことが、災害時に地域に貢献できる自転車格納庫の姿でもある。

人が共に過ごす自転車格納庫の様子

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