自転車建築(9)自転車に茶室を載せる

本連載は建築と自転車を組み合わせた表現を通じて建築の静的なイメージを覆し、建築と移動が持つ新たな可能性を探求している。引き続き、自転車、光、造形的な模型・物体の相互作用に焦点を当て、どのような表現が可能かを探る。

今回の自転車建築はいつもと一味違う。

カメラオブスキュラを使う点は以前と変わらないが、HMDを通して空間を体験するのではなく、本作は直接目で見て体験できるサイズで作成した、茶室の機能をもちあわせた自転車建築である。

茶室の外観(側面)
茶室の外観(正面)
茶室の内観
茶室の図面
乗車映像(学校敷地内で行った走行テスト)
youtubeで360°動画を見る

制作の詳細

本作は伝統的な茶室の構成要素を参照しつつ、自転車建築に合う形状に読み替えて制作した。カメラオブスキュラによって映像が投影される面を、花や掛け軸を飾る”床の間”に位置づけ、床の間を鑑賞しながらお茶を飲むという体験を設計しようと試みた。上記の乗車映像では水出しのティーバッグを用いて紅茶を入れ、飲み、菓子を食すまでの一連の行為を行なっている。

茶室の内観説明

今までの自転車建築と同じくダンボールを主な素材とするが、今回は茶室の雰囲気を出すために畳を敷いている。

畳を敷いたカーゴバイク

映像を映し出すための穴は、にじり口面に一箇所だけ設け、映像が投影される表面と体験者が向かい合う配置にした。

考察

自転車建築に機能を取り入れることに可能性を感じてこの作品を制作したが、体験者から、茶室という機能は必要ないのではないかという意見があった。お茶を淹れたり、お菓子を食べたりする行為が暗くて手元が見えない状況では困難であり、それをやり遂げたとしても特にメリットを感じなかったとのことだ。

一方で、HMDを使用しないことにより、高精細な映像が空間体験に臨場感を与え、体験者からは非常に高い評価を得た。

しかし、カメラオブスキュラを空間として直接体験するアート作品については、すでに佐藤時啓氏の「サイトシーイング・バス」や「リヤカーメラ」が存在する。本作の独自性は、機能を持つ空間とカメラオブスキュラの融合にあったが、この融合によって新しい体験を生み出すには至らなかった。

体験者の意見をそのまま受け取り、茶室空間とカメラオブスキュラの融合が新しい体験を生むことはなかったと締め括ったが、再度映像を見直すと、体験者が手元を照らす光として茶室に差し込む映像を利用している場面があった(1:27から)。茶室空間を囲む動く映像によるスペクタクル性のすぐそばに、ささいな行為の小さな変化があった。お茶を飲むという機能がなれけばこのような行為は生じなかったであろう。これはほんの小さな変化であるが、新しい体験の構築に成功していたと言えるのではないか。映像を照明として使用したいというのは筆者がIAMASに入学する際に実現したいと考えていたことの一つだったので、これは個人的な本作内一番の萌えポイントである。

【追記】考察に映像を照明として利用することについて追記した。(2024.01.31)

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