前回の記事では、室内と都市空間での制作の違いをまとめた。今回の記事では、これまでの探求と撮影した写真に基づき、より深い考察を行う。
2000枚の写真を全て見るのは難しいので、いくつかピックアップして見ると撮影した写真に共通する特徴が見えてくる。それはマンホールや白線など都市に普遍的に存在するインフラストラクチャーに注目し、そこでトリックを行なっていることである。BMXに乗り都市を探索し始めた最初は、どこでトリックを行うべきか迷った。それは迷うほどにトリックを行うための場所が多くあることも意味していた。しかし徐々に街のインフラストラクチャーがトリックを行うためのセクションとして活用できることに気づいた。物理的な街の構成要素に隠されたセクションを発見し、独自の方法で遊び尽くす感覚は、2000枚のトリックを通じて獲得したものである。この感覚は、街に隠されたセクションを探し出す「スポットシーク」という行為と、それを実践する「スポットシーカー」と呼ばれるストリート・カルチャーに通じるものだ。
2000枚の写真は、こちらから閲覧可能である。
トリックを再配置した地図に話は戻る。自分が個人的に魅力を感じ、何度もトリックを行なうために訪れた場所がある。最もよく行った場所は青で塗られた林町の一部だ。この地域は空き巣や車上荒らしが多発しており、2022年に防犯対策エリアに指定されている。このデータだけから、自分がトリックをしたいと思う場所と犯罪発生率の間に直接的な関連があると断定するのは難しい。しかし、マンホールや白線などのインフラストラクチャーだけでなく、建造物、道の明るさ、通行人、地域社会の動きも自分の視点や感受性にかなり影響を与えた。つまり、単にセクションがあれば良いわけではないと言う事だ。特に、適度な都市の暗さや通行人の少なさは、トリックを行なう際に理想的な環境と言える。暗い道は周囲の注意を逸らし、通行人の少なさは余計な目撃者を避けることを可能にする。これらの要素は、自分がトリックを行う際に必要な隠密性と自由を与えてくれる。
BMXに乗って街を探索することは、街の地形や地面のテクスチャを感じ取り、通常とは異なる視点で都市を視る事が出来る。このような探索は、まるでARレンズを通して見るかのような新鮮な体験で、BMX Graffitiで都市空間を新たに活用した。
イアン・ボーデンが強調するように、このアプローチは、ストリート・カルチャーにおける従来の枠組みを超える。街を単なる移動の場ではなく、創造的な場所として活用することで、都市の新たな可能性を探ることができる。BMXによる都市の探索は、従来の都市生活に対する反逆的な行動と見なすことができ、都市空間を表現の場として再定義する。このように、BMXはスケートボードと同様に、都市空間との関わり方を根本から変える可能性を持っている。
参考 スケートボーディング、空間、都市―身体と建築イアン ボーデン