集英社・少年ジャンプで長寿連載された秋本治の「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の主人公、両津勘吉は警察用自転車を愛用している。作中で両津がこの警察用自転車で自動車と衝突したり、時速80キロで走行したりという強烈なエピソードがあるため、両津と自転車のイメージは強いだろう。
第60巻には「開発!人間フレームの巻」というエピソードがある。このエピソードが掲載されたのは1989年で、この時期は80年代後半のバブル期にロードバイクブームが起きていた時期にあたる。このエピソードでは、両津が自転車に乗って出勤し、自転車ブームに乗じて自転車レースに参加する話が展開される。レース中に両津の自転車はバラバラになってしまう。しかし、両津は自身の身体を自転車のフレームにして優勝するエピソードとなっている。
このエピソードは一見するとただのバカなコメディエピソードであるが、人間フレームという言葉や身体をフレームにする考えは自転車乗車時の人間の体の力学的な特性を捉えているのではないだろうか。以前、人間は自転車にとってのエンジンだと主張したが、人間は自転車乗車時にフレームの一部としても機能していると考えることができる。
ダイヤモンド(型)フレームは自転車の主流なフレームタイプである。2個の三角形を一辺で接合した、または中央の頂点を一本の線でつないで分割した平行四辺形をしている。複数の三角形の組み合わせで構成され、それによって高い構造的強度と剛性が得られる特徴がある。三角形という点では自転車乗車時の身体にも多くの三角形構造が存在する。骨盤、背中、首と肩や腕の三角形など、これらの構造体が自転車のフレームと一体化し、多数の三角形を有した構造的に安定した一つのフレームを作り上げていると考えることができる。
さらに自転車に乗車時の人間の体は自然なサスペンションシステムのように機能する。手首や脚の関節は路面からの衝撃を吸収し、脊椎と背中の筋肉は体を安定させる。このように人間の体はサスペンション要素を持つため、剛性が高い部材が固着されたフレームと組み合わせることで緩衝装置の役割を持ったフレームになるのである。
両津の「人間フレーム」というアイデアは、単なるギャグに終わらない話である。”人間フレーム”という言葉通り、人間を一つの構造体とみなすアプローチが重要であると考えられる。自転車を考えることは、人間と自転車という二つの構造体を組み合わせ、どのような一つの力学的システムを形成するのかという角度から考えるのが本質だと思っている。