移動における「確かさ」とは何だろう(1) AIライド編

本記事はサイクリングを通して移動における確かさを探る短期連載の第一回目。会話型AIとのサイクリングの実践記となる。

ChatGPTを始めとした、大規模言語モデルを基に構築された会話型のAIが登場して以来、仕事の自動化、情報アクセスの向上、クリエイティビティの領域での活用など、数多くの分野で人間がこれまで時間をかけて行ってきたタスクや創発行為の補助を受けることが可能となった。


以上を抽象化した上でChatGPTと人間の関わりを言語化すると、何らかの情報提供が可能な問いに対して、会話型AIは人間の思考や提案のタスクを担うことができ、人間はAIから提供された情報の判断や編集作業に労力を集約することが出来ると言えるだろう。

筆者は日常的に移動することを趣味としており、まだ行ったことのない場所へ行くことや、複数回行った場所へ何度も足を運び、季節の移ろいや自らの感情の揺らぎを定点観測することに強い興味がある。大規模言語モデルという巨大なデータの塊は、僕のまだ見ぬ世界へ導く提案をしてくれるのだろうか。あるいは対話の中で追認行為に新しい気づきを与えてくれるのだろうか。


岐阜県大垣市にあるソフトピアジャパンをスタート地点とし、会話型AIとサイクリングを行う実験を行った。

AIライド開始!・・・だがしかし

2023年6月某日。晴天と曇天の間のような空模様。ChatGPTのiOSアプリを起動し、テザリングしたiPadに「美味しい水が飲める場所」を尋ねた。天気予報では夏日になることが予想されており、街の至る所に自噴水が在る水の都大垣をライドするに当たって、先ずは美味しい水を水筒一杯に汲めることを期待した。

「岐阜県大垣市周辺で、おいしい水が汲める場所を教えてください」

「私は今岐阜県大垣市にあるソフトピアジャパンにいます。ソフトピアジャパンの周辺でおいしい水が飲める場所を教えてください」

上記の掲載の回答が返ってきた。

念の為、提案された場所を調べてみると、鷲山公園は岐阜市内に存在している模様だが、大垣市内に沢山ある自噴水のように水の名所ではないようなので、行き先の候補から外れた。また本末転倒のような気もしたがGoogle先生に聞く限りでは、清水井なる井戸は残念ながら現実に存在していないことが確認出来た。白山神社も同様で、検索の結果厳島の水が実在していないことが分かった。


方々で言及されている通り会話型AIは「嘘をつく」ことがあり、虚偽の情報を生成することが多々見受けられる。人間の目的次第あるいは遊びとして、AIの間違いを楽しんだり、誤りを反証するように新しい創発行為を試みることが可能かもしれないが、ある地点からある地点へ移動を繰り返すサイクリングという営みにおいては、「存在しない場所へ行く」ことは叶わず、どこにも行くことが出来ないまま途方に暮れてしまった。奥飛騨温泉郷を目指すことも考えたが、「岐阜県大垣市周辺で、おいしい水を飲む」というモチベーションに対して適当な提案だと思えなかった。

仕方がないのでソフトピアジャパンから移動をすること約5分。「平成の名水百選」にも選ばれている加賀野名水公園へ向かい、おいしい水をごくごくと飲んだ。

人間の案内の方が面白い!?

会話型AIにガイドをしてもらう試みに早々失敗をして加賀野名水公園にて失意に項垂れている最中、偶然ロードバイクを颯爽と乗りこなすライダーたちと出会った。


目的地や行き先をAIに尋ねることと、人間に尋ねることにどんな違いがあるのだろうか。ふと脳裏を掠めた問いは好奇心に転化され、ゆっくりライダーたちへ忍び寄る。聞くところによると、大垣市が提供している「湧水マップ」という市内の名水が飲める場所をまとめた情報を参考にしながら、湧き水を巡るサイクリングをしているとのことだった。

マップを指差ししながら、これまで行ってきた場所とこれから行く場所について話を伺い、オススメの湧水スポットをいくつか教えて頂いた。


先ほど散々AIにおいしい水の汲み場を質問して望むような案内をして貰えなかった矢先に、人とのコミュニケーションの中で質問をした結果、望んでいた情報を精度高く知ることが出来たという体験がなんだかすごく可笑しかった。

水を飲んで気疲れが回復したので、心機一転。今度はサイクリングスポットを尋ねた。

長良川サイクリングロードは実在する道で、今回のライドでは川沿いをのんびり走ることに決めた。

念の為に行き方を尋ねた上で、Googleマップと照らし合わせてみたが、ルート案内についても虚偽の情報で、ChatGPTの指示通りに進んだ先に長良川もサイクリングロードも存在しない。

長良川もサイクリングロード。自転車と共に乗船出来る小紅の渡し。船上からの風景。川の上で浴びた涼しい風が気持ち良かった。

川沿いをサイクリングした後に、橋を渡り市街地へ。

家系の元祖「吉村家」の流れを組む「王道家」系列店で修行をした店主が営む稲葉家でラーメンを食べた。よく炊かれた豚骨と鶏ガラに濃口の醤油が良い塩梅でミックスされたスープ。最高の一杯だった。

家系ラーメンは麺固め味濃いめでオーダーして、大量のニンニクを入れて食べるのが筆者の好みです。

序盤は暗雲立ち込める展開だったが穏やかな長良川沿いをゆっくりサイクリングして、美味しいラーメンを食べ、楽しい休日を過ごすことが出来た。次回は、本記事の反省を踏まえ、人間の直感による移動を考察していく。お楽しみに。

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