何かしらの表現活動をする場合、動機となるものが必要だ。今回はとある建築様式のモチーフをとり上げる。
対象とする建物は名古屋城南にある1933年に竣工された愛知県庁大津橋分室。設計:愛知県営繕課(黒川巳喜、土田幸三郎)、愛知県信用組合連合会が建設し、1957年に愛知県の所有移転された。戦前(1937年)と戦後直後(1947年)の地図を見比べると、空襲により黒く示されていた名古屋城周辺が空き地となっている。
この建物の特徴は、階段室の3本あるピラスター(付け柱)、バルコニーやパラペット(手摺壁)の装飾、エントランスの石張り、外壁のスクラッチタイルなど。パラペットには、テラコッタ製のグリフォン:黄金の守護と知られている鷲(あるいは鷹)の翼と上半身、ライオンの下半身をもつ伝説上の動物装飾がある。
明治以降の西洋建築様式とモダニズムが揺れ動く時期、名古屋市役所本庁舎、愛知県庁本庁舎といった和洋折衷の帝冠様式ほどの派手さはないが、ナショナリズムが勃興した時代背景から、設計者の苦悩が見え隠れする。
今回、記事「Practical Cycling 4:回転する干渉」でも紹介したモアレによる表現手法を、あらためて戦前の近代建築の様式をモチーフにして実践してみた。測量技術としてのモアレトポグラフィーから着想し、形状をから線や面を抽出し、省略しながら具象と抽象の間を調整していく。
「topography」とは、地理的な場所の詳細な描写を意味する古代ギリシャ語の「τόπος(topos)」(場所)と「γράφειν(graphein)」(書く)に由来する。
プロジェクション(テスト)
全てを正確に計測したわけではないが、3Dスキャン技術を併用し、実寸スケールに近づけてフィルムに図像を描いた。二層のフィルムの距離を保ったモアレパターンは、両目で見る際に視差が生じパターンが干渉する。線と線のピッチや線幅による密度からグラデーションが生まれ、距離によっての見え方が変化する。単純なものの組み合わせから複雑な表現を生みを出す。
- 作 家|佐々木恵海、小杉滋樹、瀬川晃
- 会 場|アートラボあいち3階(愛知県庁大津橋分室)
- 会 期|2023年5月3日(水祝)〜2023年6月18日(日)
- 開館日:金曜日~日曜日・祝日開館時間:11:00~19:00
- イベント【アーティストトーク/作物から実る種-それぞれの作品について】
- 日 時|2023年5月6日(土)15:00−16:00
- 定 員|20名(当日先着順)
- 参加費|無料
参考
- 官庁建築家愛知県営繕課の人々:瀬口哲夫
- 地図で読む戦争の時代:今尾恵介
- 失われた近代建築:藤森照信・増田彰久
- 時系列地形図閲覧サイト 今昔マップ on the web