ゼレンスキーさん自転車に乗る

ウクライナの大統領ウォロディミル・オレクサンドロヴィチ・ゼレンスキー(Володимир Олександрович Зеленський / Volodymyr Oleksandrovych Zelenskyy)は、コメディアンとして活躍していた。彼はテレビ・ドラマ「国民の僕(Слуга народу / Servant of the People)」(2015〜)を制作、主演している。学生が隠し撮りしたビデオがバズり、高校教師が大統領になるドタバタ喜劇だ。

このドラマのパッケージ写真は自転車に乗ったスーツ姿のゼレンスキー。大切そうに鞄を抱えて、神妙な顔付きでこちらを見ている。自転車に乗って棍棒を振りかざし、壊れた自転車を肩で担ぐ写真もある。しかし実際のテレビ番組では自転車で出勤するタイトル・バックや小ネタ程度だ。もっともウクライナ語は分からないし、全51話のうち十数話を流し見たに過ぎない。その後に自転車が活躍するのだろうか。

一方、ドラマの主人公が最近のニュースに頻繁に登場する。ゼレンスキーは現実の世界でドラマと同名の政党を設立し、2019年に大統領になっているからだ。レーガンやシュワルツェネッガーに連なる俳優出身の政治家、その最新モデルと言えよう。しかも、ドラマの第3シーズンと現実の大統領選挙は同じ2019年で、同時進行じみた幻惑劇。しかも、その冒頭には自転車が登場せず、不穏な雰囲気で始まる。

それでは今年2022年は第4シーズンだろうか。強大な隣国が紛争地で軍事行動を始め、理想主義に燃える大統領は徹底抗戦を訴える。そこには高価なテレビ・カメラや熟練したクルー、そして念入りな舞台装置はない。大統領は自らSNSで内外にメッセージを発し、低軌道衛星通信網スターリンクを呼び込む。そしてクラウドファンディングで資金調達し、仮想通貨での寄附を呼びかける。

つまり、こうだ。戦争と言う国家レベルの抗争は情報テクノロジーによって激変し、現実と仮想は混じり合い判別不能になった。核や生物兵器、各種ドンパチの脅威は依然としてあるものの、少なくとも端緒はフェイク・ニュースを含めたサイバー戦だ。だからこそゼレンスキーは手持ちで自撮りしたわけだ。そして今こそ彼は自転車に乗るだろう。戦闘機でも戦車でもなく、自転車のペダルを漕ぐはずだ。

【追記】テレビ・ドラマ「国民の僕」のYouTubeのサムネイル画像は、記事公開時点ではドラマの1シーンであった。これが翌日にはウクライナの国旗を背景にした英語とウクライナ語でのメッセージに変わった。英語では「While you are watching this video, Ukrainian people are dying from russian attack, STOP IT!」だ。(2022.03.04)

テレビ・ドラマを制作したKvartal 95 StudioのYouTubeチャンネル

【追記】ロシアの大統領ウラジーミル・プーチンと自転車の関係を紹介した「プーチンさん自転車に乗る」を公開した。本記事と併せてご覧いただければ幸いです。(2022.03.09)

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