ニック・フェルズのps[c]yched

ニック・フェルズ(Nick Fells)のps[c]yched(サイクド?)は、弦楽四重奏と自転車、そしてエレクトロニクスのための楽曲。2014年に委嘱されてイギリスのグラスゴーで初演されている。演奏風景の動画はないようだが、その録音が公開されている。車輪のラチェット音から始まる20分弱の演奏、まずはじっくりと聞いてみよう。耳慣れた自転車や弦楽器の音の他にも、何やら不思議な音が漂う。

この不思議な音は、自転車の音をデジタル信号処理(DSP)してリアルタイムに生成されている。と書くと小難しく感じるかもしれないが、一般的なコンピュータがあれば実際に試すことができる。この楽曲で使用されたMaxのパッチ(プログラム)、Processingのスクリプト、そして楽譜のPDFがダウンロード(下図の0)できるからだ。ただし、数年前の曲なので、多少の補修作業が必要になる。

パッチ、スクリプト、楽譜のダウンロード

それではパッチを実行するためにMaxダウンロードしよう。Maxは有償の商用アプリケーションで、30日間は無料で試用できる。また機能を拡張するエクスターナル・オブジェクトもダウンロードする。0_README.txtに示されたURLからはアクセスできないので、以下に現在の入手先をまとめておく。そしてmacOSなら拡張子がmxoのファイルをps[c]ychedフォルダのmaxフォルダにコピーする。

  • mdeGranular~ mdeGranular~ 1.1をダウンロード
  • fiddle~ fiddle.v1.2.zipをダウンロード
  • sigmund~ sigmund.zipをダウンロード
  • multiconvolve~  Archive (ZIP) (MaxMSP externals) – Supplemental Material Download (10MB)をダウンロード
  • OSC-route CNMAT Max/MSP Externals for Mac and Windows (32-bit + 64-bit)をダウンロード
エクスターナル・オブジェクト(赤丸の5ファイル)をインストールしたmaxフォルダ

Maxを起動すれば、maxフォルダの0_main.maxpatを開く。ここでスピーカー・ボタン(1)をクリックすれば、オーディオ処理が開始されて内蔵マイクへの入力レベル(2)が表示される。次にソース選択メニュー(3)でliveを選び、出力レベル(4)の右側にある三角形を中ほどまでドラッグする。そしてプリセット(5)の緑色の小さな四角形をクリックすれば、何らかの音が聞こえてくるだろう。

Maxの音響処理

本来は4つのコンタクト・マイクを自転車の各所に取り付け、4チャンネルのオーディオ・インターフェースを用いてMaxに入力する。この場合は入力選択メニュー(6)で「1 2 3 4」を選ぶ。そのような機材がなくても、内蔵マイクに向かって喋ったりしながら数々のプリセットを切り替えれば、実に多彩な音を楽しめるはずだ。これらはグラニュラー・シンセシスを基にした音響処理だ。

もうひとつ重要なのがProcessingによる楽譜表示で、notercycleフォルダのdataフォルダにあるgonville-23.otfをダブル・クリックして楽譜フォントをインストールしておく。Processingはバージョン3系は正しく動作しなかったので、バージョン2系をダウンロードする。Processingを起動すれば、SketchメニューのImport Library…のAdd Library…を選んで、oscP5をインストールしておく。

ProcessingでのoscP5のインストール

そしてnotercycleフォルダにあるnotercycle.pdeを開けば、ウィンドウ左上の実行ボタン(7)をクリック。これで2段の五線譜が現れ、Maxから送られるOSCコマンドに従って音符や演奏指示を表示する。正式にはMax用に1台、Processing用に2台のコンピュータを用いるが、1台で実行しても良い。もっとも筆者はヴァイオリンもチェロも弾けないので、この演奏に関しては深入りできない。

Processingのスクリプト
Processingの楽譜表示(一例)

以上の設定が完了すれば、楽譜に基づいて楽曲の演奏となる。これは一種の図形楽譜で、自転車の車輪を手で回す、スポークを棒で叩く、スポークを弓で弾く、といった指示がある。数字はMaxパッチのプリセット番号だ。そしてProcessingで音符が表示されれば、そのフレーズを弾くことになる。4人の弦楽器奏者の他に、プリセット選択やミキシングを行うオペレータ(指揮者?)が1人必要になる。

ps[c]ychedの楽譜(一部)

さて、これまでにも自転車を楽器として扱った楽曲には、伝統様式の模倣精緻な録音編集などいくつかの取り組みがあった。それらに対してps[c]ychedは、リアルタイム性を重視した音響合成と器楽演奏の組み合わせがユニークだ。しかも手軽に手元のコンピュータで試すこともできるし、気の赴くまま即興的に演奏しても構わないだろう。自転車から如何に面白い音を引き出すか、ぜひ挑戦して欲しい。

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