今月は連載 [輪行しませんか?] を一回休みにして、筆者が大学時代に取り組んだ、自転車関連の研究について紹介しようと思う。論文のタイトルは「自転車の走行記録データに基づくビジュアライゼーションによる道路の危険性・快適性評価」(2016年)。
【研究概要】
本研究の目的は自転車乗用時のログデータを収集し、そのデータをマップ上に可視化し危険区域、箇所を特定することである。最終的な考察をしやすいようにビジュアライゼーションの設計をするだけではなく、その前段階のデータ収集の方法を含めて包括的に計画し、実行した。
類似事例として、STARAVA GLOBAL HEATMAPなどが挙げられる。本研究では、GPSによる位置情報データに、同時にセンサーで取得した速度や衝撃、ハンドリングなどのデータを付加させることで、危険性に関する新たな考察を得ること、新しいビジュアライゼーション表現の可能性を模索した。
【データ収集】
まず筆者が生活用に乗っていたママチャリを改造して、センシング自転車を製作した。Garnin Edge 500とArduinoに接続された加速度センサーや曲げセンサーなどにより、ビジュアライゼーションに必要なデータを収集する。
当時、電子工作レベルで扱えるGPSの精度がまだまだ低かったので、既製品と組み合わせて後でデータを組み合わせる形式を採用した。今なら精度の高いGPSがキットとして売られている。またハンドルの傾きを計測するために、3Dプリントしたオレンジ色のギアをグルーガンで自転車に直接くっつけている。かなり強引で今となっては少し笑える。
このセンシング自転車をスタート地点からゴール地点を往復する形で被験者に乗ってもらい、データ収集を行った。
【ビジュアライゼーションと考察】
集めたデータをProcessingを利用して地図上に可視化した。移動経路を半透明の白い線で描画し、自転車に衝撃がかかったり、減速のあった箇所に三角や円をプロットした。このプロットされた図形の集合から交通環境について考察した。下記にいくつか例を示す。
【まとめと今後の展望】
本研究を通して「衝撃を受けた」「ハンドルの操作があった」などの具体的な事実を示すアイコンの集合から「快適に走行できる道である」「道路が舗装されていない」「歩行者と動線が混在してしまっている可能性がある」といった1段階抽象化された、道路状況や使用環境に関する考察が得られた。
パブリック・コメントを収集しそれを対策に反映させるのも大切なのだが、有志の住民から集められるような定性的で少数のデータだけでは関係者の合意を形成したり、効果的な対策をするのは難しいと感じる。本研究が挑戦したような、客観的かつ多量のデータを評価することが、快適な交通空間の実現や交通事故削減の可能性を高めてくれるはずだ。
とはいえ、その目標を達成するにはデータの量が全然足りていない。次段階として、シェア・サイクルにセンサーを取り付け、自動的にデータを収集できないか、妄想もとい画策中である。進捗があれば、また記事として紹介したいと思う。