自転車の理想郷、Velotopia

スティーブン・フレミング(Steven Fleming)著「Velotopia」(2017年)は、自転車を中心とした都市計画を提案する。それは自転車によって豊かな生活が成り立つ都市であり、これまでのクルマ依存社会よりもエネルギー効率が高く、人々に健康と幸福をもたらし、持続可能な世界を実現する。そう、自転車(ヴェロ、Velo)による理想郷(ユートピア、Utopia)だ。

この妄想とも捉えられかねない主張を、著者は様々な実例と関連する研究を交えて丹念に検証する。畳み掛けるように、世界各地の先進的な都市計画や建築デザイン、そして独創的な構想や将来の可能性が提示される。自転車自体の考察が少ないのは残念だが、カーゴ・バイクなど多機能な自転車が都市生活を刷新することが示されている。ここで本書の概要把握のために目次を引用し、拙訳を入れておこう。

Forword

Introduction
A Mum With a Bub in a Box Bike
Bicycle-Centric Urban Growth: Seeing beyond the Urban Renewal Agenda
Proposition 1: New York

chapter 1- Why Should We Think About Bicycling Cities?
Sustainably Selfish
Toward a Bicycle Urbanism
Hypothetical Speed Verses Speed of Connection
Suspicion of Machines among Today’s Gentry
SimpliCITY (Less Mess is More)
Cycling and Public Transport: Take Away Cars and it’s a Zero Sum Game
Proposition 2:Copenhagen

chapter 2 – How Should We Think About Bicycling Cities?
Purpose-Building for Bikes
Epistemology and Building Type Classifications
Ørestad: Why We Need an Idea
The Utility and Folly of Utopian Visions
Proposition 3: Sydney

chapter 3 – Velotopia
Proposition 4: Newcastle

chapter 4 – Real World Issues
Velo-heterotopia
Proposition 1: Chelsea-Elliot Bike-Lovers Houses in New York
Proposition 2: Unite d’ Bicycle Nation in Copenhagen
Proposition 3: Alexandria Apartments and Cyclelogistics Centre in Sydney
Proposition 4: Newcastle Waterway Discovery Loop
Propositions 5, 6, 7 and 8: Detroit, Canberra, Brisbane and Amsterdam

Image Gallery

chapter 5 – Other Building Types
Offices Buildings
Public End-of-Trip Facilities
Ex-Urban Retreats

chapter 6 – We Have Decluttered Our Homes, Now Let’s Declutter Our Cities
In Relation to the History of Urban Design
The Body, the Primitive Hut, the Machine and the Traditional City
Shortcomings of the Traditional City as a Paragon for Environmental Design
The Elegant Device

Table of Contents, “Velotopia” by Steven Fleming

序文

序説
カーゴ・バイクに子供を乗せたお母さん
自転車中心都市の成長: 都市再開発計画を超えて
提議1:ニューヨーク

第1章- なぜ自転車都市を考えるべきか?
持続可能な自己中心性
自転車都市計画に向けて
仮説の速度と接続の速度
今日の人々の機械への疑惑
シンプル・シティ(乱雑さを減らすとより多くなる)
自転車と公共交通機関: クルマをなくそう、それはゼロ和ゲームだ
提議2:コペンハーゲン

第2章 – どのように自転車都市を考えるべきか?
自転車のための特別建築
認識論と建造物タイプ分類
オアスタッド:なぜアイディアが必要か
ユートピア構想の有用性と愚かさ
提議3:シドニー

第3章 – ヴェロトピア
提議4:ニューカッスル

第4章 – 現実世界での課題
自転車の異質空間
提議1:ニューヨークのチェルシー・エリオット地区の自転車愛好家住宅
提議2:コペンハーゲンの自転車国家連合
提議3:シドニーのアレクサンドリア・アパートと自転車輸送センター
提議4:ニューカッスルの親水環状道路
提議5, 6, 7, 8:デトロイト、キャンベラ、ブリスベン、アムステルダム

イメージ・ギャラリー

第5章 – その他の建造物タイプ
オフィス・ビル
公共の駐輪施設
旧市街地の転地

第6章 – 自宅を片付けるように自分の街を片付けよう
都市デザインの歴史に対して
身体、素朴な小屋、機械、そして伝統的な都市
環境デザインの模範としての伝統的な都市の欠点
優雅なデバイス

スティーブン・フレミング著「ヴェロトピア」目次

本書の特徴はクオリティの高い写真や図版を豊富に取り入れていることにある。しかも、専門書にありがちな生真面目で堅苦しさはなく、リラックスした楽しい雰囲気に満ちている。ページをパラパラとめくるだけで目を惹きつけるので、コーヒー・テーブル本としても活躍しそう。スタルクのレモン絞り機やマグリットのシュールレアリスム絵画などに意表を突かれるのも愉快だ。

このような内容をセンス良く演出しているのは、表紙の意匠にもなっているカラフルな太線だ。これは本文と挿図や注釈を結ぶハイパーリンクであり、視覚的な相互関係の把握を助けてくれる。文章と図版の双方に注意が惹きつけ、深く読み込むことを誘導するわけだ。それでいて読書の邪魔をすることはない。このブック・デザインは出版元の大雑把な紹介ビデオでも確認できる。

日本では自転車による都市作りが端緒に着いたばかりだ。だが、世界各地で果敢に取り組まれ、成果が上がっている。その数々の実例とともに、本書はさらなる未来像を描く。これは自転車や建築、そして都市計画の関係者必携書だろう。理想郷への誘導には、実直な調査と大胆な考察はもちろんのこと、魅力的な仕掛けが必要だ。そのことを本書は自らの存在をもって教えてくれる。

ちなみに、著者スティーブン・フレミングはオーストラリア出身で、建築の都市デザインの理論家、設計者として数多くのプロジェクトに関わっている。自転車指向の都市再開発に関連した研究と実践が多く、本書に先立つ2013年に「Cycle Space」も刊行している。現在は、なぜか水着メーカーの経営者らしい。これまた健康で幸福な都市のための社会起業と言うのだから一筋縄ではいかない。

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