2007年パリのヴェリブ出現は、自転車史において、時代を画する歴史的な出来事であった。
ヴェリブを契機に、都市公共交通に大量の共用自転車を使う試みが、世界の大都市に一斉に広がった。
日本では、それ以前から、政府主導のもとで、30ほどの自治体が「コミュニティサイクル」と名付けた共用自転車の実施計画を進めていた。
その構想は、鉄道駅を中心に複数の小規模駐輪場(ポート)をつくり自転車を相互利用する、新形態のレンタサイクルである。
しかし計画は遅々として進まず、高松・新潟・東京世田谷区などで実現していた程度であった。
そこにヴェリブの情報が伝わると、その成功を知った各地の自治体は、一斉に実証実験を開始した。
その大半は、自転車50~100台/ポート4~5所/有人取扱い(一部は無人機械化)であり、小さな規模だった。
なかには、300~400台でスタートした名古屋・東京江戸川区・堺などの都市もあったが、パリのような大きなスケール(=25.000台/1.800ポート)にはほど遠かった。
2010年富山市が、3年間の研究ののち、ヴェリブ式を本格採用した。150台/15ポートだったが、いずれ日本でもヴェリブ式が広く普及すると思われた……。
━一方、パリの情報は民間にも伝わり、世界のトレンドになった共用自転車の事業化を図る企業が現れる。
その一つが「NTTドコモ」。携帯電話技術が応用できることに着目、ヴェリブの概念を取り入れ新しい工夫を加えて、新共用自転車システムを開発した。
自転車本体に、通信・GPS・遠隔制御などの機能を一括搭載。予約・貸出・返却・決済・開錠などが容易にできた。
スマホや交通系ICカード決済も可能になった。


ヴェリブ式と最も異なる点は、簡易収納ラックと小さなビーコンをポートに設置すればコスト高の端末機が要らないこと。小スペースで済み大掛かりな工事も不要、コストが大幅に削減できた。
また、日本では駐輪設備が絶対条件のため、勝手な乗捨てや盗難対策の工夫があった。
自転車とポート両方にセンサーを装備。ポート外に放置するとセンサーが感知しないため、返却ボタンを押しても作動せず課金が続く仕組みである。
自転車は電動アシスト車だけに絞った。車体は赤塗り、後輪に広告スペースがあった。この辺りもヴェリブのアイデアである。
利用料金は30分150円・30分毎に100円追加、月会員は基本料金2.000円を払えば30分まで無料。料金体系もヴェリブを参考にしていた。
━2015年NTTドコモは子会社「ドコモバイクシェア」を設立。新システムを武器に、運営受託とシステム供給に乗り出した。
その後多くの自治体のコミュニティサイクル運営を受託。バラバラだった東京都10区を始めシステムを共通化、利便性を高めている。
自治体と組むドコモにとって、駐輪設備があれば路上駐輪OKの改正道交法もポート設置の追い風になった。
その後、日本のシェア自転車は、自治体タイプ・ドコモタイプ・従来型民営レンタサイクルが入り乱れる。
加えて16~17には、乗捨て自由・スマホ決済の中国式シェア自転車が日本企業と連携して参入、日本では駐輪場が必要条件のため、その帰趨はわからない。
2018年国土交通省は、「コミュニティサイクル」の呼称を、公式に「シェアサイクル」に変更した。
━レンタサイクル新時代の幕開けである。