自転車のフレームは、本を読んでから作ることが出来るだろうか。もちろん言うまでもなく、制作には専門的な知識が必要だ。また、知識だけでなく、メカニックとしての訓練や経験も要る。しかし乗り物の中で、自転車のフレームほどシンプルで、もしかしたら作れるのではないか、と思わせてしまう物もないと思う。そこで本を探してみても、制作方法が分かる書籍は、意外と少ないことがわかる。そんな悩みを抱えていた時、筆者(sy)が見つけた本が、この「Lugged Bicycle Frame Construction」である。著者はMarc-Andre R. Chimonasであり、英語ではあるがそこまで難しくはない。
この本では、「Lug」を使用しフレームを制作する方法を知ることが出来る。「Lug」とは、フレームを構成するパイプ同士をつなぐ際に使う「連結部」である。この連結部にフィットするパイプを通し、ロウ付け(Brazing)をして結合させる。ロウ付けをするということは、溶接のように母材を溶かすことがないことを意味する。この本は、基本的に個人がある程度の工具を持っていて、制作をすることを想定しているので、敢えて溶接機を使う方式を選ばなかったという。
この本で学べるもう一つの重要なことは、自転車フレームを構成するパイプの長さや角度を、どのように決められるのかについてである。例えば、Wheelbase(前輪と後輪が地面に接している地点の間の長さ)が短いと一般的に急旋回することができるようになる。また、Toptube(上のTTと記されたパイプ)の地面に対する角度は、クラシックなフレームジオメトリでは0度であるなどの、自転車の形状に直接かかわる有益な知識が満載だ。
また、本には自転車フレームで使用する材料に関する知識も載っている。鉄の中でも、軟鉄からクロモリ鋼、ステンレス鋼など色々あるが、この本には、自転車フレームを制作する際、各材料がどのような特徴があるのかが細かく書かれている。しかし、知識としては有益でも、実際試すときはやはり、ある程度の経験が必要だと考える。無理をして扱いづらい材料を選んでも、結局強度が足りなくなるからだ。
また筆者にとっては、これまで鉄鋼作業をあまりやったことがなかったため、果たしてパイプの接合部などを作れるのか、などで悩むときがあった。そのとき、この本はとても助けになってくれた。すでに述べた通り、この本は個人で揃えられるぐらいの工具で、制作を進めることを想定しているため、パイプの加工でもベンチグラインダーほどの工具で、どうすれば綺麗な加工が出来るのかが記されている。そこで、実際加工し作品の一部として使用したのが下の写真である。
この本は、最終的にLugを用いた自転車フレームを一つ仕上げるところまで書かれている。そして、その内容が他の本ではあまり接することが出来ないため、嬉しい本である。ただ、本の前半にも書かれているように、基本的にフレームを制作することは専門的な作業である。特に、接合方法や材質の選定、またフレームの形状を決める時も、実際は数学的な計算とシミュレーションを行い、安全なフレームを制作する必要があるのだ。とはいっても、やはりこのような工程について学ぶことが出来て、何より自分の乗り物が作れるかも知れない、という夢が見れることから、この本は素晴らしい本だといえる。