「心のこもった手書きの手紙」は前世紀の美徳。そもそも手書きで文字を書かないし、手元に便箋や封筒がない。切手もなければ、料金がいくらかも知らない。ポストの場所を知らず、最寄りの郵便局も分からない。観光地や美術館には、色とりどりの絵葉書が並んでいるが、投函することはない。同じように投函するとは思えないが、自転車をモチーフとした絵葉書を眺めるのは楽しい。
アンティーク絵画によるグッズを数多く扱うPixiluvは、24枚組の自転車のポストカード・セットも販売している。これはアール・デコ調の広告絵画で、ほぼすべての自転車がセーフティ型で、唯一の例外としてロングスカートの女性が乗る三輪型がある。時代がかった紳士淑女の服装や、髪結い着物姿の日本趣味など自転車を通した世俗が興味深い。ただ、説明や詳細な情報が添えられてないのは残念。
「Anatomy of Cycling」は自転車塗り絵絵本なども出版しているLaurence King社刊行の自転車ポストカード22枚組。デヴィッド・スパーショット(David Sparshott )によるロード・レースに関連した素朴なイラストは味わい深く、裏面に添えられた短い説明は豆知識になりそう。ロード・バイク、フレーム、コンポーネント、サポート・カー、ジャージなど、歴史的な逸品から近年の話題作まで楽しめる。
立派な化粧箱に入った「Cyclepedia: 100 Postcards of Iconic Bicycles」は、タイトル通り著名な100台の自転車がポストカードとして収められている。それぞれ表面は自転車の端正な右向き車体写真、裏面には名称や年式、重量、パーツなどの簡単なスペックが添えられている。ちょっとした遊びとして、カードをシャッフルして1枚ずつ取り出して、名前クイズやウンチク合戦ができそうだ。
実はこれ「サイクルペディア」という自転車辞典が元になっている。カードの裏面には簡単な説明しかないが、書籍では自転車ごとに詳しい解説と数葉の写真が添えられている。そう、書籍での掲載順にカードが重ねられており、カードをシャッフルすると大変な目に遭うので要注意。ちなみに、稀代の名車だけでなく、風変わりな迷車も収録されているが、ビンテージ系は少なく現代的な自転車がほとんどだ。
22枚や24枚と聞くと、数が少なく物足りないと思うだろう。だが、意外に物足りないとは思わず、長い時間楽しめる。これは1枚1枚カードを手にするのに手間がかかり、説明が少ないので絵や写真を眺めて想像を巡らす時間が長いことに起因するのだろう。つまり、タブレットの高速フリックとは異なる「心のこもった手書きの手紙」的な行為であり、機械を人力で動かす自転車にも繋がる魅力と言えそうだ。