人並みに日記を書こうとして一週間と続いた試しがない。日記帳を開き、日付を記す儀式だけで、億劫で仕方がない。それだけに、モバイル・テクノロジーが発達して、思いつくままツイートできるのは有り難い。日々刻々と行動や身体情報を勝手に記録してくれるのも大歓迎。当然、ライドはGarminのボタンを押すだけ。それなのにサイクリングやレースを記録する本を3冊も買ってしまった。
「Bicycle Travel Journal」は、ヒルクライムの抽象絵画集「Cycling Climbs」の著者ナイジェル・ピーク(Nigel Peake)による自転車旅行のためのジャーナル(日誌)。中判ノートとして取り扱いやすいサイズで、車輪が型押しされた革表紙を思わせる装丁から、変化に富んだ中身まで凝りに凝っている。だが、押し付けがましくないクールさは画集と同じ。どこか捉えどころのない諧謔味も漂っている。
この本は持ち主の名前や連絡先を記すページから始まる。自転車やサイクリングをモチーフとしたイラストが現れ、走行距離と高度のグラフやライドの記録といったページもある。しかし、大半は空白や罫線だけのページで、紙質は白から茶色まで順不同で一貫性はない。極めつけは、小さな封筒が何枚も綴じ込まれていることだろう。日誌らしからぬジャーナルだが、自由気ままに使えば良いのだろう。
筆者はレースの観戦歴がほぼゼロ。なので、ツール・ド・フランスのログ・ブック「Le Tour」は縁遠い世界。それだけにニール・スティーブンス(Neil Stevens)の洒落たイラストとは裏腹の、厳密に形式化されているのであろう詳細な記録様式に唖然とする。ツアーの結果を21日間書き連ね、監督気分で作戦を練るのだろうか。公式サイトには掲載されないデータがあるに違いない。
内容はレースのログが大半を占め、ステージごとの出発地や終着地、距離、天候といった基本情報から、スプリント賞、山岳賞、そして優勝から5位までの氏名と時間、さらにクラッシュや集団離脱者なども書き込めるようになっている。また、冒頭にはレースや観戦についての基礎知識、ルールやエチケットなども解説されている。最後のページは、お気に入りのレーサーのサイン用だ。
浮遊するジャーナルと几帳面なログに対して「A Road Bike Journal」は、特に目的を限定しない自由帳のようだ。イライザ・サウスウッド(Eliza Southwood)によるイラストは控えめで、空白のスペースがたっぷりとある。しかし、「The Cyclist’s Bucket List」なる副題と、冒頭の「Have you ever…」に続く言葉とイラストで全体が構成されていることに気づくと、ドキリとさせられる。
その問いは、例えば「ラルプ・デュエズを登ったことある?」「一日に100/200/300km走った?(達成すれば数字を消す)」といった具合だ。そう、これは「自転車乗りが死ぬまでにすべきリスト」なのだ。その数は30もあり、最後にチェック・リストも整っている。なかには「本当に必要な数以上の車輪を持っている?」や「パートナーに内緒で自転車にお金を使った?」まであるのが可笑しい。
以上の本は画集も含めてローレンス・キング社(Laurence King Publishing Ltd)から出版されている。いずれも書籍の体裁や雰囲気が似ているので、自転車好きの編集者がいるのだろう。他では見かけない種類の出版物だし、電子化にも馴染まない。それだけに、ちょっとした宝物のように思えてくる。だが、もちろん、書き込むことはしない。ページを眺めながら、何を書こうか空想を巡らすのが至高の時間だ。