北アイルランド出身の画家ナイジェル・ピーク(Nigel Peake)の画集「Cycling Climbs」は、その名の通り、サイクリングでの登坂、すなわちヒルクライムを題材とした20枚の絵画で構成されている。これらは大判厚手の上質紙に印刷されており、弱い糊の無線綴じなので、それぞれを切り離して額装することもできる。つまり、これは20ページの書籍ではなく、副題が示すように20枚のアート・プリントだ。
表紙にはハンドルが描かれているが、本編では自転車の要素は少なく、ヒルクライムとして有名な山岳コースが主題となっている。それも、素朴なタッチながら、インフォグラフィックスを連想させるクールで抽象的なドローイング。ヒルクライムで酷使される肉体、レーズの駆け引き、観衆の熱狂、といった熱い要素はどこにもない。平時に山を訪れて、かつての熾烈な戦いを偲ぶかのよう。静かに眺めていたい。
絵画の裏には、題材となったヒルクラムのデータとともに、その歴史やエピソードがぎっしりと書かれている。これは共作者クレア・バーモント(Claire Meaumoint)によるテキスト。英文なのでスラスラとは読めないが、読み応えがある。ヒルクライム好き、レース好きであれば、ニヤリとする記述が多いだろうし、ドローイングから感じ取り、読み取ることも多いのではないかと思われる。
さて、20枚の絵画に描かれた山やコースは以下の通りだ。フランス、イタリア、アメリカ合衆国が多く、コロンビア、スペイン、ベルギーからも題材が取られている。2人の作者は画家であり文筆家であると同時に相当な自転車好きのようで、各地を取材して制作している。ナイジェル・ピークの画集には「Bicycle Travel Journal(自転車旅行ジャーナル)」もあるので、こちらも機会があれば紹介したい。
- Mont Ventoux – France
- Onion Valley – USA
- Cottonwood Valley – USA
- Koppenberg – Belgium
- Passo dello Stelvio – Italy
- Madonna del Ghisallo – Italy
- Alpe d’Huez – France
- Passo del Mortirolo – Italy
- Alto de Letras – Colombia
- Passo Gavia – Italy
- Alto de l’Angliru – Spain
- Mount Evans – USA
- Circle of Death – France
- Col du Galibier – France
- Mount San Antonio – USA
- Col du Tourmalet – France
- Mount Lemon – USA
- Colle delle Finestre – Italy
- Alto de la Linea – Colombia
- Mount Washington – USA