ビル・カニンガムの撮影自転車

ビル・カニンガム(Bill Cunningham)は世界的なファッション写真家。ニューヨーク・タイムズに所属し、煌びやかに着飾った人々の写真を取り続けた。彼を有名にしたのは、ファッション・ショーやスタジオではなく、ニューヨークの街角で撮影するストリート・スタイル。その様子はドキュメンタリー映画「ビル・カニンガム&ニューヨーク」(2011)に描かれている。

トレード・マークである青いジャケットを羽織り、長身痩躯のカニンガムが街頭でスナップ撮影のように気軽にカメラを構える姿は有名だ。この時に欠かせないのが自転車で、これも彼のアイコンであろう。彼の死を悼んで特集された12枚のイラストレーションでは、その半数に自転車が描かれている。映画や書籍などにも青いジャケットで自転車に乗る姿が使われている。

首からカメラを掛け、黒いカメラ・バックをたすき掛けにして自転車に乗る。ニューヨークならメッセンジャーのピストを連想するが、カニンガムは何の変哲もない古い実用車がお気に入りだったらしい。時には前カゴもあるママチャリ風の自転車だったりもする。ニューヨークで自転車シェアリングが始まった時には、これでいつでもどこでも撮影に出掛けられると喜んだらしい。

ファッション・トレンドの原石を探すには、ゆっくりと街角を流すように走る自転車が最適だったのだろう。歩くよりは効率的に移動したいが、オートバイや自動車では速すぎて見落としてしまうからだ。それに、古びたクラシカルな自転車は、人々の警戒心をかき立てない。自転車にまたがった好々爺がシャッターを切った後で、青いジャケットに気づく。そんな光景が何度も繰り返されたに違いない。

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