水墨画のような景色を見たいという家族のお供で桂林(Guilin)を訪ねた。定番の漓江(Li River)の川下りの船に乗り込んだところ、ちょうど小雨模様で完璧な世界が出現。石灰岩が侵食されて垂直に切り立った山々は、荒々しい岩肌と濃い緑の樹々のまだら模様。水蒸気が立ち込めて霧となり、極端な空気遠近法で濃淡が描かれる。あまり期待していなかったものの、異世界感たっぷりの絶景に心奪われる。
これだけなら単なる観光だが、川下りの終着地、陽朔(Yangshuo)から桂林に戻る自動車から側道を見て驚いた。自動車道路に沿って両側に、赤茶色に舗装された綺麗な小道が延々と続いているのだ。これは高品質アスファルト(透水性レジンモルタル)の自転車専用道路に違いない。まさに中国のサイクル・スーパーハイウェイだ。しかし、たまに見かける自転車はママチャリばかりで拍子抜けする。
ともあれ、これは走らないわけにはいかない。待ち構えていたように、路傍には貸し自転車屋がある。レンタル料金は3時間で50人民元(約850円)。借りたマウンテン・バイクは、チェーンのオイルが切れ気味だったものの、走り出せば爽快極まりない。カルスト・タワーの山々を眺めながら、滑らかな舗装道路を走る醍醐味は格別。あろうことなら、ロード・バイクで高速ライドしたいところ。
現地のガイドさんによれば、自転車レースに合わせて自転車道が作られたと言う。筆者はレースに興味がないので知らなかったが、UCIのワールド・ツアーの最終ステージとして、2017年にツアー・オブ・広西(Tour of Guangxi)が始まっている。その最終日が、桂林をスタートして陽朔に至り、桂林に戻る168kmのコースだ。川下りの漓江を囲むように周回するルートになっている。
写真で見ると実際のレースは、道幅が広い自動車道で行われている。つまり、自転車道はレースを行うためではなく、レースを契機として自転車環境の向上のために整備されたわけだ。翻って日本ではどうだろう?ツアー・オブ・ジャパンのコース沿いに自転車専用道路があるだろうか?来るオリンピックではどうだろうか? 経済だけでなく文化でも、日本が後進国であることを痛感してしまう。
なお、桂林から陽朔までは80kmほど。西側ルートは平坦で、東側ルートは山岳エリアを含んでいる。この自転車道の名称は特にないらしい。また、桂林や陽朔からのサイクリング・ツアーは、オフロード系を含めて数多くあるようだ。水墨画の世界としか認識していなかった己の不学無知を恥じるしかない。桂林を訪れるなら、風光明媚な絶景サイクリングにこそ挑んで欲しい。