ペチャクチャ・クリティカル・サイクリング

養老アート・ピクニック初日の夜にプレゼンテーション・イベント「養老アート・ナイト Powered by PechaKucha」が開催された。これは20枚のスライドが20秒ずつ表示しながら話をするトーク・ショウ。ここでは筆者は行なったクリティカル・サイクリングのスライドを原稿とともに掲載する。養老アート・ピクニックにおけるクリティカル・サイクリング的視座を中心に構成している。

IAMASの赤松です。クリティカル・サイクリングをしています。これは批評的に自転車を楽しみ、移動しながら研究する活動です。そのまんまですね。昨年から始めました。WEBサイトもあるので是非ご覧ください。
私はこれまでメディアアートの作品を作ってきました。ふと気がつくと、テクノロジーとアートの歴史で、至るところで自転車に関連していました。そこで自転車からアートを、ひいては生活や社会を考えようとしたわけです。
さて、今年は自転車が誕生して200年だそうです。ドイツで発明されました。養老の1300年に比べたら、大したことないですよね。この自転車、車輪はありますが、ペダルはなく、足で蹴って進みます。馬の代用品だったそうです。
ところが、それよりも100年以上前に日本で自転車が作られています。江戸時代半ば、将軍吉宗の時代です。小舟を利用した三輪車でペダルを漕いで進みます。新しいことが禁止された封建社会だったので、驚くべきことです。
この江戸時代の自転車を、IAMASの学生が現代の技術を使ってリメイクしました。似ていると言えば似ていますが、無茶苦茶に進化していますね。このバージョン2.0は今回のバイク・ハックで展示していますので、試乗してみてください。
さて、不思議なことに車輪は何千年も前に発明されていますが、馬車や牛車のように家畜が動力でした。これを何故、人の力で進むようにしなかったのでしょうか?道がデコボコだったことも理由でしょうが、それだけではありません。
18世紀になって産業革命と市民革命が起こります。これらが自転車に繋がります。それ以前は、個人が自由に自分の力で移動することは考えられなかったからです。そう考えると、封建時代に生まれた日本の自転車の凄さが際立ちます。
自転車は女性にも人気がありました。ですから、ロング・スカートでも乗れる3輪の自転車が作られたり、自転車に乗りやすいキュロットなどの衣装が工夫されました。フェミニズムが生まれたのも18世紀です。
民俗学で有名な柳田國男は明治・大正時代の世相を記録しています。曰く「村に自転車が入ってきてから、若い者がとかく出あるいて困る」と。村に縛られ、農作業に明け暮れていた人々が自由を手に入れたわけです。
このように自転車は個人と自由に結びついてきました。これは歴史的にそうであるだけでなく、現代の私たちにとってもそうです。幼い頃、はじめて自転車に乗れた時、これで誰に頼ることもなく、どこへでも行けると思いましたよね。
そんな子供たちを応援するために、子供たちが安全に楽しく自転車に乗れるように、明日ウィーラースクールが開かれます。最初はよろよろしていた子供が、みるみるうちに上達しますよ。これは大人も必見です。
ウィーラースクールはベルギー発祥だそうですが、ヨーロッパでは自転車が盛んです。クルマ社会のアメリカですら、自転車が人気です。中国では過激なくらい自転車の利用が高まっています。なぜか日本だけが取り残されています。
例えば、ロンドンではサイクル・スーパーハイウェイと呼ばれる自転車専用レーンがあります。そのひとつは一等地のテムズ川沿いにあって、自動車道路より広いのです。ビッグベンやロンドンアイを見ながら走るのは最高です。
アメリカでは国土が広いこともあって、随分と余裕のある自転車レーンが設けられています。路肩に駐車しても、自転車が楽々と通れるほどです。ポートランドでは、自転車マークに落書きするグラフィティが人気でした。
アムステルダムは世界の自転車首都を自称するくらい自転車が盛んです。しかも、無茶苦茶です。スマホ、電話、ヘッドフォンは当たり前。二人乗りや二台乗りも当たり前。自由と寛容の国、なんだそうです。
ナイメーヘンにも行ってきました。アムステルダムとは違って落ち着いた美しい街です。ここでは自転車に関する世界最大規模の学術会議に参加しました。2,000人近い人が何日間も自転車について熱弁をふるいます。
デンマークはサイクリング国家をうたっていて、その首都であるコペンハーゲンは最高でした。なにしろ市内交通の半分以上が自転車だそうです。自転車専用の道路や橋がたくさんあって、都市の構造が自転車に最適化されています。
コペンハーゲンで一番面白い場所は、治外法権とカーフリーを主張するクリスチャニアです。ここで生まれたクリスチャニア・バイクを、オープンソースでモジュラー化したXYZ Cargo Trikeも今回展示しています。
ところで、この近くの養老鉄道には、自転車をそのまま電車に乗せるサイクル・トレインがあります。でも欧米にはサイクルトレインがありません。電車に自転車を乗せるのは当たり前なので、わざわざサイクルトレインとは呼ばないわけです。
このように自転車には様々な可能性があります。ただ、何よりも大事なのは自転車に乗る楽しさです。そして、自転車に乗ることはバランスを取ることです。これこそが、何かに偏りがちな現代社会に対する自然な解決策になるはずです。

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