先進14都市の自転車インフラストラクチャー

ロンドンの交通局(Transport for London、略称TfL)は様々な自転車施策や自転車調査の結果を公開している。今回は「ロンドン市長のサイクリング構想」に続いて、2013年に行われた先進都市での自転車インフラの調査レポートを取り上げる。その研究報告書がInternational Cycling Infrastructure Best Practice Study、その付録がCity Summariesで、いずれもPDFとして公開されている。

順序は逆になるが、付録に実際に調査が行われた以下の14都市の概要が記述されているので、先に見ておくと良いだろう。すでに実績を上げている自転車都市が多いが、ニューヨークのようにロンドンと同じような問題を抱えた都市も選ばれている。また、さらに先進的と思われるアムステルダム(オランダ)とコペンハーゲン(デンマーク)や他の都市については、以前の調査が研究に取り入れられている。

  • ニューヨーク(アメリカ合衆国)
  • ワシントンDC(アメリカ合衆国)
  • ブライトン・アンド・ホブ(イギリス)
  • ナント(フランス)
  • ミネアポリス(アメリカ合衆国)
  • セビリア(スペイン)
  • ダブリン(アイルランド)
  • クライストチャーチ(ニュージーランド)
  • ストックホルム(スウェーデン)
  • ベルリン(ドイツ)
  • ミュンヘン(ドイツ)
  • マルメ(スウェーデン)
  • ケンブリッジ(イギリス)
  • ユトレヒト(オランダ)

この付録では、都市ごとに以下の11項目からなる文章2ページと8葉の写真2ページの合計4ページが割り当てられている。統一したフォーマットで項目と分量が整っているので、都市と都市との比較が行いやすい。写真は素人っぽい街角スナップだが、市街地の様子を伝えるには充分なのだろう。欧米の都市ばかりであるせいか、写真で都市を判別し、都市の大小を見分けることは難しい。これは逆のヒントになるかもしれない。

  • 自転車道路網の概要
  • 自転車の統計情報
  • 施策と財政
  • 法的な枠組み
  • 公共のレンタル自転車
  • 自転車の文化
  • 公共交通機関
  • 組織運営
  • 居住状況、地形、機構
  • 参考資料
  • インタビュー

さて、本体である調査研究報告は100ページ以上の分量で、多岐に渡る内容が詳細に記載されている。従って、それを的確に要約することは難しいが、興味深い点はサイクリストの帰属意識や安全意識、そして自転車や街路の文化的側面なども扱っていることだ。定量化しにくい主観的な領域も含めて、得られた知見として以下の項目が挙げられている。箇条書きだけでは具体的な内容までは分からないので、ぜひ本文にあたって欲しい。

  • 居住性(Liveability)
  • 指導力(Leadership)
  • 運営管理(Governance)
  • 長期関与(Long term commitment)
  • 漸次的改革(Incremental change)
  • インフラの原則(Infrastructure principles)
  • 保護と分離(Protection + Separation)
  • 類似性と相違性(Similarities + differences)
  • 専門用語の回避(Avoiding jargon)
  • デザインの妥協回避(Avoiding compromised designs)
  • 変革への法令や規則の範囲(Legal + regulatory scope for change)
  • 道路光景の影響力(Streetscene impact)
  • 歩行者とサイクリストの相互作用(Pedestrian-cyclist interaction)
  • 自動車運転の文化(Driving cultures)
  • 自転車の駐輪場(Cycle parking)

ところで、実際の調査では各都市ごとに15人のTfLスタッフが赴いて2日間程度滞在し、40〜50kmほどのサイクリングを行われている。最大で都市ごとに延べ750km、全都市なら10,000kmを超える。日本でも同様の自転車調査が行われているが、その都市を実際に自転車で走る調査は少ない。現地識者に案内されて要所要所を自動車で回るだけなら不十分だ。実際にペダルを漕ぐことが、認識と思考の出発点になるからだ。

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