デイヴィッド・バーンのアメリカン・ユートピア

アメリカン・ユートピア」(2020)はデイヴィッド・バーン(David Byrne)による舞台を、スパイク・リー(Spike Lee)が映画化した作品。デイヴィッド・バーンはトーキング・ヘッズのリーダーと活躍し、白人ながらアフリカ音楽を大胆に取り入れたことで有名。スパイク・リーは黒人監督として「マルコムX」など数々の映画で人種差別問題を訴えている。その2人がタグを組んだわけだ。

この映画ではトークを時折挟んで全21曲が次々と演奏される。天井からの簾だけのシンプルな舞台で、照明演出も映像効果も最小限。12人のミュージシャンがお揃いのグレイのスーツを着て演奏し、裸足で歌い踊る。どこかミュージカルのようでもあり、力強い楽曲と相まって思わず惹き込まれる。それは現代的なショービズの対極にあり、土着的なお祭り騒ぎに近く、ダサ格好良い(かもしれない)。


サンティアゴでのライブ映像より(映画「アメリカン・ユートピア」ではない)

トーキング・ヘッズのライブ映画「Stop Making Sense」(1984)から30数年を経て、デイヴィッド・バーンの髪は白くなり、ダボダボのスーツはタイトになった。大掛かりな楽器は消滅し、すべてがモバイル(移動可能)だ。パーカッションやキーボードは鼓笛隊スタイルで自由に動き回る。マイクやギターはワイヤレス化されて、PAは見えないように隠される。こうして地に縛られていた楽団は空を舞う。


映画「Stop Making Sense」(1984)より

そして本作の真髄はコンサート終了後に潜んでいる。出待ちするファンの前に現れたデイヴィッド・バーンは、愛用の自転車に乗って劇場を後にする。そう、リムジンではなく自転車だ。少し疲れた様子だが、穏やかな表情。続くエンド・クレジットでは、出演者全員が自転車に乗ってハンハッタンを走り抜ける。流石に楽器は持っていないが、いずれペダルを漕ぎなら演奏するに違いない。

デイヴィッド・バーンは、音楽界きっての熱心なサイクリストであり、1980年代から常に自転車に乗っている。Montague社の折り畳み自転車を持って世界各地を回った旅行記「Bicycle Diaries」(2009)を出版し、ニューヨーク市の依頼を受けてアイコニックな駐輪スタンドを制作している。彼の音楽がそうであるように、彼の自転車からも素朴で気負いのない喜びが伝わってくる。

ところで、本作のメンバー構成は人種や出身に配慮しているようで、アジア人はいない。自由度が高い写真の挿画ですら偏っている。冒頭で脳の働きによって世界が変わると力説し、世界を変えるには投票が大事だと訴える。幾重にも矛盾と疑問が浮かび上がる。「UTOPIA starts with YOU」と私たちの行動が問われていることは確かだ。単純に楽しいだけの音楽映画ではない。何度も見返すことになりそうだ。

さらに、この映画は2019年から2020年にかけて撮影されている。そう、新型コロナウイルスが猛威を振るう直前だ。だから誰もが大声で歌い叫でいる。それは今となっては楽園のようだ。そして、アメリカではオンライン配信だったのに対して、日本では映画館上映だけ。この周回遅れ感は半端ない。大画面と大音量は否定しないが、それならばブロードウェイに行きたいと思う。もちろん自転車を持って。

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