バランスからだ自転車~特殊自転車体験イベント

「バランスからだ自転車」は、養老アート・ピクニック2018のプログラムの一つとして開催された、特殊自転車体験イベントである。屋外でアートを体験することを目的とする、養老アート・ピクニック2018に関する基本的な情報は、以前の記事で確認が可能だ。また、使用された自転車は8種類であり、その中、試乗できる自転車は7種類あった。

試乗車
新製陸舟奔車2017
Halfbike
さかさま自転車
さかさまトライク
連結自転車
Ninebot mini Pro
Human-Framed Cycle
BellCycle(展示のみ)

結論からいうと、特殊な自転車を体験するイベントを開催したのは、これから購入をするために試乗してみることを目的としない。ここで重要なのは、身体を使った体験であり、感覚である。そのため「特殊」な自転車を考案し、制作した。また、試乗車に関する紹介は、過去の記事のこちらと、Ninebot mini Proに関しては、こちらでも確認できる。そこで、この記事では、筆者(sy)自身がイベントを進めながら、体験者と一緒に経験した、試乗車に乗った時の感覚を中心に話したい。

新製陸舟奔車2017


・安定からの不安定
新製陸舟奔車2017は、三輪を持っているため、最初に乗り込むまでは安定している。しかし乗り込んだ直後は、ペダルの位置とクランクの角度が死点(力が入る角度とレバーの角度が揃い回りづらくなる角度)に入っていて、回しづらくなっている。そこで体験者は、自らの体重を動かし、車体を揺らしながらペダルを回す。こうやって乗り込んでから、自ら不安定さを作り出し自走することが、この作品の体験上の特徴である。

Halfbike(ハーフバイク)


・ハンドルが回らない立ち漕ぎ
Halfbikeに乗ろうと決めた体験者は、まず、その視覚的なデザインに惹かれる様子が強く見られた。それには、車体も小さくシンプルに見えることも、影響していると考える。しかし実際乗って見ると、ハンドルが回らず、車体を倒すことでステアリングすることに気づき、その難しさに驚く。


普段の自転車は、車体を傾けてのステアリングに加え、ハンドルも回すことができる。そういった二重の構造に、自然に強弱をつけて操縦しているのだ。その反面、Halfbikeは、車体を傾けることのみでステアリングができる。結果、まだ慣れていない体験者は、操縦において何らかの不自由さを感じる。しかし、ハンドルを回さない分、重心移動を積極的に使わざるを得ないので、徐々に慣れて来ると、より大きな楽しさを感じることになる。

さかさま自転車


・ハンドルの回転が逆になる
さかさま自転車は、ハンドルと前輪の回転が逆になっている。それ以外の構造は、普段日常で使用している自転車と変わらない。それでもこの試乗車は、ほぼ全員の体験者が、走行できないほどの難易度だった。構造そのものは、ハンドル以外特殊ではないため、体験者は、論理的には理解できる様子だった。「問題となるのはステアリングだ」と言い、直進すれば大丈夫なはず、と話す体験者も多く見られた。


しかし、実際そう思ってやってみると、あまり効果がないことに気づく。実は、普段自転車に乗り、直進している時の行動には、少ないとは言え「左右へのステアリング」を制御していたのだ。この試乗車を体験すると、普段左右に曲がろうとする量を「0にするため」のステアリングを、常に行っていたことに気づかされるのである。

さかさまトライク


・二つの逆回転が必要
さかさまトライクは、XYZ Cargo Trikeをベースに、ハンドルの回転とペダリングの回転を、逆に変えた自転車である。まず三輪であり車体が大きいため、最初乗り込む時と走行中も、バランスに対して不安定になることはあまりない。むしろその安心感があるからこそ、ハンドルやペダルを操作した瞬間の驚きが大きい。


また多くの体験者は、ハンドルの逆回転に気づいたときより、ペダルの逆回転を感じたとき、もっと驚いていた。つまり、ペダルの逆回転という現象は、もっと予想ができないものだったのである。このことから考えられるのは、普段使用している機械構造への慣れ方は、「各パーツごと」で分析することが可能ではないか、ということである。

連結自転車


・言葉に合わせる身体
連結自転車は、二台の自転車を二か所で連結させ、左右に乗った二人の体験者が、息を合わせて乗る自転車である。試乗車の中では唯一、一人以上の体験者が乗れる点が特徴だった。一般的なタンデム自転車tandem bicycleが、主に操縦と駆動という役割を分けて走行するのに比べ、この連結自転車は、対等な二台の自転車が連結されているため、お互いの操縦が走行を邪魔する場合も発生する。つまり、自然にお互いが話し合い、タイミングを合わせてハンドルを回し、協力する必要が出てくる。


このように、協力する間の体験者たちを観察すると、そこには、言葉を使ったコミュニケーションと、身体を使うコミュニケーションの「二重のコミュニケーション」があることに気づく。言葉によりお互いの身体を制御しつつも、突発的に起きた地面の変化などに対応するため、ハンドルを回すなどの行動を起こせば、それがそのまま横の自転車に伝わる。それは「身体的な言葉」を相手に伝えることに相当する。この現象は、言語という記号体系を使った情報伝達と、身体感覚的なコミュニケーションが、同時に起きるからこそ興味深い現象である。

Ninebot mini Pro


・身体機能の部分的自動化
Ninebot mini Proは、一般的にセグウェイという名称で知られる、自立バランス車輪である。これを自転車と呼ぶかどうかは論じるべきではないと判断し、ここでは他の試乗車と比較しながら、起きた現象に焦点を当てたい。この試乗車の特徴は「人力以外の動力」で動くことと、バランスを維持する機能を、部分的ではあるが「機械が自動で行う」ことである。体験イベントでは、多くの来場者たちが体験を求めた、人気のある試乗車だったが、なぜ人気があったのかを分析することは難しい。なぜなら、技術的に最新の物を使用しており、そもそも話題性があったからである。ただ、イベント会場の地面が芝生であり、やや傾斜があったことから、この試乗車での走行が楽であったことは、容易に観察できた。


しかし興味深いのは、一律にみんなが楽に走行でき、慣れる必要が皆無なわけでもなかったことだ。実際、筆者を含くむ多くの体験者は、慣れる時間が必要だった。またその時間も決して短いものではなかった。これは、バランスを自動で取ってくれる機械があったとしても、それが人間の持つある身体機能すべてを、完全に自動化してくれることは、かなり難しいということを、気づかせてくれる。


このように「身体機能を自動化」させる機械の使用では、人間が持つ身体感覚は、機械が補った分簡素になり、量的にも減る。このような、機械との間で生じた「身体感覚の差分」は、各自の身体を総体的に認識するため、意識する必要がある。

Human-Framed Cycle


・新しい身体感覚を得るための自転車
作品「Human-Framed Cycle」に関しては、上記の試乗車との比較のため、体験の様子を、作品の構造を含めた形で述べたい。


・ペダルの有無
本作品は、駆動する原理を体験者が身体を使い確認する時間が、ほかの試乗車に比べて長かった。本作品を接すると、まず、普通のペダルらしい部品が見えない。よって、体験者は、乗車した後もどのように駆動させたら良いか、長い時間を掛けて確認していた。普段自転車に乗るときは、最初、横に立ち、手でハンドルを抑え車体の安定を確保する。そこから、足をペダルに乗せる。すると、この時点から、バランスが崩れる可能性が生まれる。つまりペダルは、身体が当たる自転車の部品の中で、体重をもって確認する、ほぼ最初の機械要素なのだ。体験イベントの他の試乗車も、普段は見かけない特殊な物だったが、ペダルが認識できると、体験者はそこを基準にし、すぐ体重を乗せることが見られた。つまり、ペダルを踏むときの身体感覚は、機械を動かすという現象と、密接に繋がっているといえる。


・ハンドルと車体旋回の関係
この考察は主に、前述した「さかさま自転車」と本作品の間での比較である。「さかさま自転車」は、ハンドルと車体の回転以外は、普段乗っている自転車とほぼ同じだが、この試乗車の持つ難易度はとても高かった。それに対し、本作品では、一度、体験者が旋回方法について学習すると、それを後で再確認することは、あまり起きなかった。

本作品の特徴である、ロープという素材でステアリングし、身体の後方に進むことよりも、右手により右に旋回し、その逆も同じであることは、体験者にとって分かりやすく再確認が要らなかったのである。つまり、このことから、車体の旋回方向とハンドルの回転の関係性は、とても強く結びついていることが分かる。また「さかさま自転車」の例で見るように、その部分のみを逆にするだけで、ほぼ走行が出来なくなるぐらい、難しく感じられるのだ。


・視覚的な記号としての自転車の形状
体験者が来場したとき、最初から、本作品を見て試乗車の一つだと認識した人は、とても少なかった。また後から作者から情報を与えられ、驚くことが頻繁に起きた。つまり本作品は、我々が持っている自転車の形という、視覚的記号から離れているといえる。これは、先述したペダルの有無を含め、「自転車なら」持っているはずの部品が、簡単に見つからなかったのが理由である。これに関するもっと具体的な検証は、本作品と似たバリエーションを制作し、認識実験を行う必要があるが、それは本作品の制作と活動で扱う範囲ではない。


・不安定になりうる三輪車と感覚の順序
体験イベントで、本作品以外の三輪車の中、車体が大きい試乗車は、バランスを取る必要がほぼなく、常時安定していた。それに対し、本作品は最初は安定していたが、移動時にはバランスが簡単に崩れる。そこで、経験する感覚に順番が生じた。これは、本作品の前後左右の長さが短いため、起きる現象である。この特性は、筆者と身体的に大きく異なる体験者に対し、効果があった。特に背の低い子供の体験者の場合「まずは乗ることができる」という形になり、さらに動かすことができたことは、ほかの試乗車とは違う現象だった。

最後に、「バランスからだ自転車」という屋外のイベントについてまとめたい。筆者にとって、この体験イベントは、自分の身体を基準にし制作した作品を、ほかの人に体験してもらうことから、自分自身を外界へ露出させる場であった。そして、そこには、異なる目的をもって制作された、いろんな特殊自転車があり、それを体験する人々もまた、各自の身体をもっていた。筆者は、そこで生まれた、多様な身体の動きと感覚により、当然だと思っていた我々の身体を、再び感じ、捉えなおすことに繋がっていたことを願う。

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