テイチライド 04:街を撮影する

自転車にアクションカメラを装着し、都市の断片を「スナップ写真」のように切り取る。本記事では、機材の選定から「10秒」という制約が生む偶然性、InstagramやYouTube、BandCampを横断するワークフロー、そして未来へのアーカイブとしての意義までを整理した。


10秒の断片を記録する

連載前回で紹介したInsta360 Go 2はコンセプトこそ秀逸だったが、計3回の故障を経験した。現在は信頼性を重視し、DJI Action 2を使っている。カメラユニットを分離できる構造は、ハンドル周りを極めてコンパクトに保てるため、私の用途には最適だ。実際に運用すると音質の向上が著しく、以前は激しかった風切音が抑えられ、街の環境音が明瞭に記録されるようになった。

ハンドルバーにGoProマウントでDJI Action 2を固定。ステムバッグのモバイルバッテリーから給電する。

この機材の「10秒モード」は、私が提唱する「スナップ写真のように映像を撮る」手法——「Stream Snap(ストリーム・スナップ)」を技術的に裏付けてくれた。長尺の記録は情報の解釈を鑑賞者に委ねすぎる側面がある。対して、時間を限定する制約は、撮影者の視点を明確に伝える装置となる。マウントはハンドルバー固定とし、走行中の安全と、狙った瞬間にシャッターを切る「能動性」を両立させている。

予測不可能な「終わり」を撮る

撮影ルールは至ってシンプルだ。走行中、これから10秒間に訪れるであろう風景を想定してシャッターを押す。記号的なルールに則るよりも、その場の身体的な反応に任せるのが私のスタイルだ。強力な水平維持と手ブレ補正により、映像は現実以上に滑らかに、そして客観的な視座を伴って記録される。ワイドな画角は、記憶よりも速い速度感を演出する。

しかし、この手法の本質は「始まり」は選べても、「終わり」を正確に制御できない点にある。録画が止まるまでの間、度々想定とは違うことが起きる。橋を渡る高揚感、カーブを抜けた先の遠景、信号待ちで隣り合ったバイクの音。頭の中でカウントしながら走ることで得られる感覚は、目の前の景色というより「脳内の風景」に近い。カウントすること自体が、撮影の目的化している節すらある。

Instagram:断片の集積と写真的な「投稿」

帰宅後は選別作業に入る。1回の走行で撮れるクリップは80から100枚に及ぶ。これらをスマホアプリで確認し、視覚的・聴覚的に惹きがあるものに「♡」をつけていく。Instagramに投稿するとき、私はあえて「リール」形式を使わない。個々のクリップが独立した「通常の投稿」という形にこだわるのは、映像を一枚の「写真」として扱いたいからだ。

以前、一度に投稿できるのは10枚までだったので、構成は9本×3セット(計27本)を1行程の区切りとした。以前はサムネイル代わりの静止画を1枚目においていたが、現在は映像クリップのみで構築している。リールの方が拡散性は高いだろうが、私が見せたいのは一本の物語ではなく「写真的な断片の集積」である。それぞれの映像が、独立した存在として並んでいる状態こそが、記述としての誠実さを担保すると信じている。

YouTube:4分33秒に込めたアーカイブの構造

YouTubeへは、セレクトした映像を連結したアーカイブを公開している。10秒映像27本で構成し、3秒のクレジットを添えて合計4分33秒の尺にする。この尺はジョン・ケージが作曲した作曲者の意図を離れた音を聞く曲「4’33″」へのオマージュであり、都市のノイズを一つの楽曲として提示する試みだ。それは「見えているけど見ていない」風景の連続である。また、映像のサウンドトラックは抽出し、フィールドレコーディング音源として、音楽配信プラットフォームのBandCampで発表している

編集にはDaVinci Resolveを使用する。凝った演出は排除し、時系列に並べて音をノーマライズする。かつては書き出しに1時間を要したが、GPU搭載機への刷新により数分で完了するようになった。この「編集コストの極小化」は、記録を継続するための必須条件だ。Instagramと異なり連続した映像になるが、各クリップごとにチャプターを付与して、独立した存在として構造を維持している。

未来への視線:何気ない日常のデータベース化

2021年末から開始したこの活動も、既に300本を超える映像群となった。蓄積が進むにつれ、街の中に気になるテーマが浮上し、作品化への欲求が芽生えてきた。2024年からは何度か上映や展示の機会を得て、YouTubeへのアップロードとは異なる思考での制作も開始した。この「記録」から「表現」への転換については、次回の記事で詳述する。

現在は自治体ごとの再生リストを作成し、情報の検索性を高めている。影響源は東京の町を記録し続けるビデオグラファー、Lyle Hiroshi Saxon氏のチャンネルだ。1990年代以降の東京を捉えた彼の映像群は、ストリートビューの静止した過去よりも遥かに雄弁に時代を語る。数十年後の誰かが2020年代の東京を知るための資料として、この「自転車で通り過ぎただけの何気ない日常」を残し続けていく。

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