本稿では、自転車生命体Cycloborgが搭載するシステムについての記述を行う。
「自転車生命体Cycloborg」は、現代の過剰なテクノロジーが形成する従属構造を可視化し、テクノロジーに対する批評的思考を誘発する触媒として機能することを目指し制作された映像作品を主軸とするインスタレーション作品である。本作の制作にあたり、本来、人間の主体性を損なわず、身体能力を拡張する機械である自転車に対し、あえて過剰な機能を付加することで再構築を試みた。この再構築の過程で、筆者は2つのプロトタイプシステムを開発・実装した。身近で既に機能的な道具にあえて過剰な機能を付加し、それを使用する様子を映像作品として提示した。この不自然で滑稽な状況は、鑑賞者に違和感を突きつける。私たちの社会は摩擦のない滑らかな技術環境を追求し、利便性と効率性を至上の価値としてきた。しかし、本作は、この「滑らかさ」に対抗するかのように、意図的に摩擦係数の高い「引っ掛かり」を生み出す。
以下は筆者が開発した2つのプロトタイプシステムを組み合わせたシステム概要図である。
Tera Cycle System
Tera Cycle Systemは、自転車という移動のための機械に「生命維持装置」としての役割を付与することで、人間が自転車に食糧や水分を与えられる存在となり、そこに頼る以外に生き延びる術を持たない状況を作り出すことを目的として開発された。具体的には、自転車走行中に大気中の水分を回収し、さらにその水と使用者の呼気を用いて微細藻類を培養するシステムを構築した。本システムは、外部からの補給に頼らない閉鎖的な生命維持環境を模索し、人間が機械に完全に依存するという極端な関係性を提示することを狙いとしている。
Tera Cycle Systemは、自転車に乗車した状態で人間の生命維持に不可欠な水(H₂O)の生成と、エネルギー源となるスピルリナの生産を目的としたシステムである。これは胎児が母胎内で羊水を通じて必要な水分を得るのと同様に、自転車上で水を生成し、生命を維持するために必要な環境を提供する。このシステムは、空気を結露させる冷却ユニットとスピルリナの生成を行うスピルリナ育成ユニットの二つで構成される。冷却ユニットで自転車走行時の空気抵抗を利用して空気を冷却し、結露を起こして水を生成する。この生成した水に加え、人間の呼気とLEDの光源を照射することで、スピルリナの培養を行う。
自転車上で食料を生産するという発想は、一見して現実性に乏しく、技術的にも多くの課題を抱えている。食料生産には広大な土地、日照、水資源、さらには長期間にわたる安定した環境が必要とされるため、限られたスペースとエネルギーしか持たない自転車上での実現は極めて困難である。このような制約の中で、本制作では微細藻類であるスピルリナに着目した。スピルリナは、従来の植物に比べて成長速度が速く、単位面積あたりの栄養生産効率が極めて高い。また、液体培養が可能であり、コンパクトな培養槽内での生産に適している点も、自転車上での運用を検討する上で大きな利点であった。
Respi Cycle System
Respi Cycle Systemは、自転車のペダリングの位相と使用者の呼吸を強制的に同期させることで、呼吸という人間の基本的な生命維持活動を自転車の作動状況に従属させることを目的として開発された。これにより、従来の自転車が人間主体の道具として機能してきた関係性を逆転させることを試みた。呼吸という本質的に自律的な行為を機械によって管理・制御することで、テクノロジーが人間の生理に介入し、その主体性を侵食していく様を極端化するものだ。Respi Cycle Systemは、ペダリングセンシングユニットと呼吸制御ユニットの主に2つから構成されている。この二つのユニットを連動させることにより、自転車使用時の身体運動であるペダリングと生命維持に欠かせない呼吸を強制的に同期させる。具体的には、クランクの回転運動を前部と後部の二つに分け、それぞれを吸気と呼気に対応させる。ペダルが前部にある時は息を吐くだけが可能で、後部に位置する時は息を吸うことのみ可能という状態を作り出す。
Respi Cycle Systemは独自に開発したペダリングをセンシングするペダルと呼吸を制御する電磁弁を組み合わせルコとで人間の呼吸を制御する。以下は開発したペダルと電磁弁の概要図である。