東京は坂道が多い。名前がついている坂だけでも900以上あるという。また、横浜は港町、川崎は工業地帯といった一般的なイメージがあるが、実際には、いずれも北部を中心に起伏に富んでいる。
そんな街で疾走するのが「子乗せ電動アシスト自転車」である。朝夕の保育園・幼稚園送迎タイムには、ときには前後にまで子どもを乗せたお母さん/お父さんがぐいぐい坂道を登っていくのが印象的だ。みな涼しい顔で登っていく。子どもを連れて行かなきゃならないし荷物もあるしクルマを使う程の距離でもないけど歩くのはキツイし。そんな時にベストな乗り物が「子乗せ電動アシスト自転車」なのだ。

同じ路上を走るものとして、正直なところ怖い(ぶつかったら間違いなくこちらが吹き飛ばされそうだ)。だが、乗り物としては非常に興味深い。そんな「子乗せ電動アシスト自転車」に注目してみた。
子乗せ電動アシスト自転車って何モノ?
2人の子どもを乗せることができる自転車=幼児2人同乗用自転車については次のような定義がある。
幼児2人同乗用自転車とは、運転者のための乗車装置と2つの幼児用座席を設けるために必要な特別の構造又は装置を有する自転車のことです。
幼児2人を同乗させても十分な車体強度とブレーキ性能、駐輪時の安定性確保、転倒時の安全性への配慮などが図られています
東京都生活文化局サイトより
そして一般社団法人自転車協会が定めた安全基準(BAA)の「幼児2人同乗基準」に則ったものが「幼児2人同乗基準適合車」である。また、乗せる子どもにも、体重、身長、年齢の制限がある。
フロントチャイルドシートは体重15kg以下、身長100cm以下、年齢1歳以上~4歳未満
ヤマハ 幼児2人同乗基準ってなんですか?
リヤチャイルドシートは体重22kg以下、身長115cm以下、年齢小学校就学の始期まで
これらの条件をクリアし、電動アシスト機能を備えたものが「子乗せ電動アシスト自転車」だ。
子乗せ自転車には、幼児1人用の「前乗せタイプ」「後ろ乗せタイプ」、前後に乗せられる「3人乗りモデル」がある。大手自転車販売サイトなど見るに、パナソニック、ヤマハ、ブリヂストンが3強といったところ。価格帯はおおよそ15万円前後が中心のようだ。ホームセンターなどで安い自転車(いわゆる軽快車=ママチャリ)なら1万円台で買えてしまう中で、結構な値段である。
揺るがない安心感
子乗せ電動アシスト自転車には、クロスバイク/ロードバイクには見られない、特徴的な機能がある。実用性や安全性に特化し磨き上げられた機能は見事である。
基本機能(おおよその車種にみられる共通機能)
・フレーム構造が頑丈
・接地面積の広い太めタイヤ
・強力な制動力を持つブレーキ
・簡単に立ち上がる幅が広く倒れにくいスタンド
・安全面に配慮されたシート
・サドル高から子乗せまであらゆる箇所のアジャストが柔軟
これらの基本機能に加え各社では独自の機能を加えている
・電子キーで自動解錠
・子どもを乗せたまま押し歩きでもアシストが効く
・スタンドを立てるとハンドルが固定する
・頭部を270度包む後ろ乗せシートのヘッドレスト
・1つの鍵で車輪とバッテリーの2箇所を各々ロックできる鍵
etc.
それにしても、自転車本体の重量がだいたい30kg以上、これに運転者+子ども2人の体重で、総重量は100kgを超える場合もあるだろう。通常、アシストが効くのは時速24km/hまでだが、下り坂でもっとスピードが出ている自転車に出くわすこともある。
少々怖そうだが、圧倒的な安定感と強力なブレーキで端から見ているほどには恐怖感はないのかもしれない。
スタンドで自立している自転車に子どもがよじ登って自分でシートに座ったシーンを目撃した。特にそばにいたお母さんが手を添えているわけではなかったが、自転車はどっしりと安定していた。
これは都会の装甲車
プレス向けに画像が用意されていたヤマハ「PAS kiss」とパナソニック「ギュット・クルーム」の姿を貼る(いずれも2025年モデル)。


あえてミリタリー調のカラーを選んでみたが、この無骨なフォルムにマッチしていると思う。また、シートの「装甲感」もあいまって、防御力が高そうだ。

ひょっとするとかっこいいのではないか
例えば、ロードバイクは「速さ」「軽さ」「走る楽しさ」を追求する趣味性が強い乗り物である。一方、子乗せ電動アシスト自転車は「実用性」「安全性」「家族の移動」を主目的とした“生活の足”だ。両者は用途も価値観も大きく異なる。
ロードバイクのようにカラーリングが凝っていたり、大々的にブランド名がフレームに描かれていることもない。また、どちらかというとくすんだ色合いが多いように思える。
何台も連なって駐輪しているのを見るに、これは自分の自転車を見分けられるのだろうかと要らぬ心配をしてしまう。あまりこの領域に、個性は求められていないのかもしれない。

しかし、機能的に磨き上げられた子乗せ電動アシスト自転車は、自転車として魅力的である。ごっついフレーム、低重心のフォルム、ロングホイールベースも見方によっては魅力的だ。電動アシストの走破性も相まって、ひょっとすると十分に「走る楽しさ」や「フォルムの美しさ」を味あわせてくれるポテンシャルがあるのではないだろうか。
日単位や月単位でレンタルできるサービスも展開されているので、興味を持った方は、試してみるのも一興だ。
もしくは購入してしまってがっちりカスタマイズするのも楽しそうだ。