自転車に乗って、明日に向かって撃て!

アメリカン・ニューシネマの傑作、映画「明日に向って撃て!」(1969)は、原題「Butch Cassidy and the Sundance Kid」の通り、実在した悪漢二人組の物語。その始まりは1890年代のアメリカ西部。ワイルド・ウエストと呼ばれた西部開拓時代は終焉を迎え、フロティアが消滅した頃。新しい時代の息吹に気づかないふりをして、主人公たちは身に染み込んだ古い行動規範にすがろうとした。

賭博から列車襲撃まで彼らは飄々と悪事を続ける。保安官が追跡を訴えるが、反撃を恐れてか志願する者はいない。その傍で商人が未来の乗り物の宣伝を始める。小さな機械が人生を豊かにする、もう馬はおしまいだ、と。翌朝、主人公の一人が空中を滑るかのように現れ、相棒の恋人を誘い出す。バート・バカラックの名曲「雨に濡れても」の調べに乗って、軽やかに自転車で駆け巡る。

一晩で習得したのか、彼女をハンドルに腰掛けさせて二人乗りでペダルを漕ぐ。通り過ぎる樹木の下で、枝から林檎をもぎ取って頬張る。そう、知恵の実だ。さらに強盗業で鍛えた身体能力の高さで、次々と曲芸乗りを披露する。両足をハンドルにかけて手を離し、サドルに腹這いになり、サドルに片足で立つ。挙句の果てに後ろ向きになって進み、前を見ていないので柵に激突してしまう。

その後、彼らは精鋭部隊に追い詰められ、九死に一生を得る。だが逃げ切れないと観念して国外へ脱出する。旅支度をして馬車に荷物を積み込み、苦々しく自転車を捨ててしまう。空回りする車輪が暗示的。なにしろ新天地と信じて渡ったボリビアは期待外れ。初めこそ良かった彼らの悪事も次第に形勢が悪くなる。真っ当な仕事につこうとするも上手くいかない。坂を転がるように転落してゆく。

馬も蒸気機関車も遠いノスタルジーとなり、この映画では登場しない自動車(内燃機関車)も色褪せた今日この頃。ただ、奇跡のように自転車だけは当時と変わらない。自転車はいつの時代も自由の象徴であり、新しい可能性を切り開く乗り物だ。そう、あの朝の自転車での戯れこそが彼らが得た束の間の安息であり、人生を変えるチャンスであったに違いない。

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