星井さえこの「おりたたみ自転車はじめました」は、初心者向けに折り畳み自転車の楽しさとノウハウを伝えるイラスト・ブック。200ページ近いフルカラーの本書、平易な語り口と愛らしい絵柄で、その魅力に引き込まれる。なにしろ、公園で優雅にくつろぐ女性に憧れて、いきなり折り畳み自転車を購入する。「まずは形から入ってみた…!!」と圧倒的に正しい理論展開にエールを送りたくなる。
こうして折り畳み自転車を相棒として、喋る犬をお供に冒険が始まる。まずは近所の公園から、そして輪行して見知らぬ町に出かけ、やがて輪行旅行に繰り出す。そのワクワクドキドキが溢れんばかりに伝わってくる。走行距離は街乗りで数km、旅行で20kmから40kmほど。街を探索し、風景を楽しみ、カフェや温泉は欠かせないのだから、ひたすらではなく、ほど良く走るのが基本。
普段着だった衣服や身の回りが次第にアップデートされるのも楽しい。ヘルメット、指切り手袋、専用バッグとくれば一端のサイクリストだが、服装はあくまで可愛くまとめる。バッグの中身が覗けることにも興味津々。太いチェーン・ロックを2つ常備しているのは都会っ子らしいし、宿泊旅行の荷物を選び抜いてメッセンジャー・バッグに納める工夫に感心してしまう。
ちなみに、作者は折り畳み自転車歴10年で、愛車は白いBrompton S6L。特に隠すわけでもなく、特徴的な形状を実直に描けばバレバレであるのが微笑ましい。中盤にはBromptonだけでなく、Dahon K3などの対抗馬やCarryMEといった変り種を紹介している。そして、一般の人が持つであろう折り畳み自転車の疑問や輪行旅行のアレコレに対して、イラストや文章で丁寧に説明している。
筆者(赤松)も数年来Bromptonに乗っており、輪行旅行もしている。従って、本書の内容には新鮮味はない。それにも関わらず、何度もページをめくり、ニヤニヤしてしまう。これは、あとがきに書かれているように、本書が折り畳み自転車の魅力を、初心者に伝えようと奮闘努力しているからだろう。そのような思いの芳香が、経験者に忘れていた感覚を呼び覚ますわけだ。何とも甘酸っぱい良書だと思う。
本書は、おりたたみ自転車を人におすすめするときに「これ読んでみると良いよ!」と手渡せるような本をめざして作りました。初めての人が特にとっかかりづらいと感じる「輪行」のやり方を中心に、ノウハウはできるだけ具体的に分かりやすく。そして、自転車でしか感じられない気持ち良さやワクワク間を、漫画という形で追体験できるように表現してみました。
星井さえこ「おりたたみ自転車はじめました」あとがき
もちろん、折り畳み自転車の使い方や楽しみ方は十人十色。誰もが一家言あるに違いない。また、本書で描かれる情景の穏やかさに違和感を覚えないでもない。極寒激暑には出掛けず、天候が悪くなれば近隣の駅から輪行だろうか。ただ、それだけではないのが現実の世界。風に吹かれ、雨に打たれ、段差に転倒し、クルマに轢かれる、といった苦闘の続編をリクエストしたい。
星井さんのTwitterでその画を見て、すぐ注文しました。
読み進めていくうちに知人が登場しているのに気が付き、そのそっくり具合に思わず笑いました。
自転車に乗っている人「以外」の人(これから乗る人)にぜひ手にとっていただきたいなぁと思います。
書店のどのコーナーに置かれるか、ですね。
三省堂書店本店では自転車コーナーにはなく「コミックエッセイ」の棚にありました。正解だと思います。
なるほど書店のコーナーは大事ですね。私はAmazonのレコメンドで気づいたと思います。