自転車に「乗る」ためのレッスン 第23回 自転車を誤用する

前回、北野武が原作を書いた「たけしくんハイ!」での自転車のことを書いた。原作者である北野は、1989年『その男、凶暴につき』で、主演だけで無く、映画監督としてデビューする。当初は深作欣二が撮影する予定だった。

北野の映画に一貫することは、誤用である。『その男、凶暴につき』でもバッティングセンターに行くシーンがあるが、基本的にバットは凶器に使用される。ちなみに、野球をめぐる誤用は、その後の多くの北野映画で象徴的なシーンを構成する。『3-4X10月』(1990年)はタイトルからして野球だし、草野球からさまざまなことで誤っていく物語だ。そういえば、『アウトレイジ ビヨンド』(2012年)では、バッティングセンターがアジトであり、加瀬亮演じる石原は、野球しようと言われ、ピッチングマシンの前に固定されて殺される。これもすべて誤用だ。

暴力をめぐる表現について、映画だから良いという気はない。ただ指摘しておきたいのは、暴力以外のシーンも含め、北野映画全体を形成しているのは誤用であることに意識をうながしてほしい。なにか些細な誤用から、笑いが生まれ、誤解が生まれ、物語は主人公たちを暴力に導く。その躓きかたがあり得るというか、それもできてしまうことは、可能性にも不可能性にも通じている。

で、自転車は? 残念ながら、北野作品において最初に誤用されるのは、おそらく自転車だ。『その男、凶暴につき』の冒頭、少年たちがホームレスを暴行し、どうやら致命傷は自転車によるものに見える。なんてことだ、と思う。ある意味で、誰もが日常乗りこなせる自転車で暴行するというのは、その誰でもできてしまうかもしれないという、地続き感を際立たせる。特に少年たちは、ホームレースを人とも思わず、その生も死も軽くみていることを、強調している。

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