[ESSAY] 貸自転車ショートストーリー (6)

1973年のオイルショックから今日まで、国と自治体は、自転車活用社会実現を模索している……。

80~90年代には、大量の放置自転車に悩まされながら、コミュニティサイクルと呼ぶ都市型レンタサイクルの社会実験を続けていた。

例を挙げれば、埼玉・上尾駅前に駐輪タワーを建設、レンタルの採算性を研究した。

自宅から駅までを「順利用」、駅から目的地までを「逆利用」と呼び、2名が順逆4回利用すれば収益確保できると計算した。いかにも日本的でキメ細かい実験だが、他に応用できる普遍性に乏しかった。

それでも2000年までに全国19モデル都市で都市型レンタサイクルが展開されたが、多くは採算性に問題を抱えていた。

━そこに、これまでの世界の概念を超える画期的なレンタサイクルシステムが登場した。

2007年フランス・パリのことであった。

その名を「ヴェリブ」(Vélib)という。フランス語の「Velo」(自転車)と「libre」(自由な)を組み合わせた新造語である。

━フランスやイタリアは“自転車後進国”と言われることがある。自転車をレジャー用だけしか使わないからである。実用にも使うドイツや北欧を“先進国”とする、皮肉な表現である。

その“後進国”パリが、慢性的な交通渋滞解消と環境対策を目的に、自転車を都市交通手段に組み込む新しい試みを打ち出した。まさに“コロンブスの卵”といえるアイデアであった。

ヴェリブのどこが画期的か?

第1に駐輪場所が非常に多かった。

利用者は300メートル間隔にある「スタシオン」のどこで自転車を借りても、どこへ返却してもよく、飛躍的に利便性が高かった。しかも1台の端末機と台数分の施錠用自転車スタンドがあればよく、設置コストも安かった。

第2にスタシオンは無人であり、事前登録により料金のクレジットカード決済が自分でできる簡便性が評価された。

第3に利用料が安かった。30分まで無料、1時間1ユーロ、それ以上は30分毎に加算されるなど小刻みに設定され、1日借りや週間パスもあり使い勝手がよかった。

第4に事業が民間委託され、市の負担が軽減された。運営は、市内の広告パネル設置権と引き換えに、広告代理店が10年契約で請け負った。

第5に自転車はカラーを始めレンタル専用仕様であり、街の景観が保たれる工夫があった。

━開始後1年、1.500のスタシオンと2万台の自転車が配備され、利用者延べ3千万人、年間パス登録20万人と大好評だった。バスのような公共交通機関として認知された感があった。

この新システムは、ロンドン・デンマーク・バルセロナ・ニューヨークなど世界に広がっていった。

日本でも、スモールシティを目指す富山市が運用を開始した。

━世界がヴェリブに注目するなか、2015年世界最大の自転車生産国中国・北京で、さらに驚くべき新システムが登場した。

この中国式の登場により、世界の都市レンタサイクルの姿は、一変していく……。

(画像はWikipediaより)

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