[ESSAY] “ひき逃げ”でなくても“ひき逃げ”になる

自転車の交通取り締まりが強化されている。もともと自転車は道路交通法上軽車両扱いである。だから、自転車乗車可とか専用道路以外の、今まで大目に見ていた一般歩道の走行を制約し、車道を走れと指導している。

昨年11月、自転車で車道を走行中に人身事故を起こし、ひき逃げで起訴された事件があった。「自転車のひき逃げとは何だ?」と思う人は多いだろう。珍しい事件だが事実である。

報道によると、東京都内でイヤホンをつけた30代の男性医師が、自転車に乗って交差点に差しかかり、一時停止を怠りそのまま走行してきたくるまに接触した。あわてたくるまは急ハンドルを切り、たまたま近くを自転車で走っていた40代女性をはねた。女性は転倒して脳挫傷の重傷を負った。事故の原因をつくった医師は壊れた自分の自転車を放置して、倒れた女性を介護もせず、そのままタクシーに乗って立ち去ったという。

警察の調べに、医師は「女性が怪我をしたことは知らなかった」と説明した。だが、警察は「わかっていたはず」として、ひき逃げの罪で送検した。

法的根拠は、道路交通法に「事故の場合車両の運転者には負傷者の救護義務が生じる」と規定され、車両には自転車も含まれているからである。

自転車で直接“ひいた”わけでなくても、人身事故の誘因をつくり怪我人の介護をしないでそのまま立ち去ったら“ひき逃げ”になる可能性がある。

事件の当事者の男性医師は、道路交通法違反のひき逃げだけでなく、交差点で一時停止せず安全確認を怠ったことから、併せて重過失傷害罪にも問われている。

人を避けながら歩道を走るスポーツバイク、スマホなどの「ながら運転」、イヤホンをつけたままの走行、雨の日の傘さし乗車、親子連れの重い電動アシスト車の増加など事故の原因は多い。

自転車交通事情は良好とはいえない。自転車先進国に倣って、自転車道や自転車用道路標識の設置が望まれる。

だが、それ以上に自転車に乗る人のモラルが今厳しく問われている。

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