自転車を電車に載せるには、分解または折り畳んで丈夫な袋に入れる。これは輪行と呼ばれ、JRを始め無料の場合が多いのでラッキー!…と思うのは早計。海外、特に欧米では自転車はそのまま車両に持ち込むのが当たり前だからだ。それが証拠に輪行にあたる言葉は存在しない。同じようにサイクル・トレインと呼ばれることもないが、欧米での交通公共機関での自転車の扱いを見てみよう。
例えば、ロンドンでは地上駅から自転車とともに電車に乗り込むことができる。地下駅では折り畳み自転車に限られるが、これがBrompton人気の一因になっている。通勤ラッシュ時には遠慮するマナーも尊守されている。日本よりも狭い車両でありながら、自転車の持ち込みに苦労しない。むしろ、サイクル・スーパーハイウェイが沿線沿いに作られるなど、自転車と鉄路の共生が図られている。
さらに路線によっては、自転車を固定する専用スペースや専用器具が備わっている。イギリス南部のブライトンで乗った車両には、自転車の前輪を差し込んでベルトで固定する設備があった。ポートランドのトラムでは、自転車を上から吊す。これらは自転車だけでなく、車椅子やベビーカーなどの固定にも使われ、混雑時にも接触しない工夫もある。彼らからすれば、日本のベビーカー論争は理解不能だろう。
車内に空間的な余裕が少ないバスでは、車外に自転車を固定するラックが設けられる。これはバスの前にある金属フレームで、2〜3台の自転車を搭載可能。利用するには、運転手に合図をして自分で積み降ろせば良い。使用しない時はラックを畳めるので、その開け閉めも自分で行う。手慣れた人は数秒で積み下ろしをするので、バスの運行を妨げることもない。このような自転車ラックはアメリカでよく見かけた。
電車やバスだけではない。O2アリーナ付近にはテムズ川を渡る最新鋭のロープウェイがある。そのあたりには橋がなく、大回りするは大変なので、ダメ元で係員に尋ねてみた。すると、当たり前だろと言わんばかりの表情で通される。長椅子を跳ね上げると固定具が現れ、数人乗りのゴンドラを専有させる気配りもある。特等席のような空の旅を楽しむとともに、自転車が社会の前提となっていることを痛感した。