自転車に乗って狩りへ行こう!

Pokémon GOで一斉を風靡したNianticの新作スマホアプリであるモンスターハンターNowが9月14日に配信を開始した。

ゲームシステム自体はPokémon GO同様オープンワールドとARをベースとしていて、実空間で移動をしながらモンスターと対峙するシステムを踏襲しているが、その中身は畜産と狩猟くらいの差があると思った。Pokémon GOにおいてモンスターは捕まえる対象であり、どこでいつポケモンをゲットしたのかデータが雄弁に語るが、モンスターハンター(以下モンハン)においてモンスターはユーザーに狩られることによって一位性のないアイテムへ変わり、そのデータは武器や防具に転化してプレイヤーの仮想的な身体に纏われていく。

Pokémon GOと同様、モンハンNowでもゲームプレイに際して速度制限が存在する。

駅への停車や信号待ちの際に限定される電車や自動車の助手席でのプレイは、効率よく素材を集めたり、ランダムにエンカウントしたモンスターとバトルするのに適しているが、モンハンのゲームシステムでは、武器を強化してより強い敵を倒し、さらに武器を強化するというサイクルが存在するため、武器の素材集めのために特定のモンスターを狙って倒す必要がある。そこで、フィールドに散りばめられている目当てのモンスターを狩る際には小回りが効く上に歩行以上の速度で移動できる自転車が最高のモビリティだと考えた。

本記事では、自転車で旅をしながらモンハンをプレイした筆者のある一日を紹介する。

狩りに出かける

10月1日日曜日。明け方から降っていた雨が止んで天気も安定しそうだったので、中距離のライドが出来そうな目的地をGoogleMapで探す。今回はいつものスタート地点である岐阜県大垣市にあるワークショップ24から約20km先にある世界淡水魚園水族館 アクア・トト ぎふを目指してサイクリングをスタートした。

途中までは見知った道だったので地図を見ずにサクサク進む。

ゲーム内のポータル(鉱石や薬草といったアイテムを採取出来る地点)はIngressのシステムを利用しており、何度も通った道であってもポータルに寄り道をしてみると思わぬ発見がある。

スタート地点から5分ほどライドした場所に地蔵が祀られているとは知らなかったし、近くの看板に書いてあった由来を読むことで土地への理解が深まった。ポータルの北側にある寺から石像を譲り受けたことが、この地点で地蔵を祀る始まりとのことだった。

モンスターを追いかけて近道から寄り道を繰り返しているうちに思いもよらぬ風景との出会いが沢山あり、河原で彼岸花を見かけた時は思わず季節の変遷に心打たれた。近くをあちこち巡ってみると川沿いの限られた地域にしか咲いていなかったため、モンスターを探していなければ出会えなかった風景かもしれない。

大垣市近郊には木曽三川(揖斐川・長良川・木曽川)と呼ばれる大きな川が流れており、ゴール地点がある岐阜県各務原市へ最短で向かうならば、国道21号線に沿って架けられている大きな橋を何度か渡る必要がある。

今回、揖斐川を渡る時に少し遠回りをして重要文化財でもある旧揖斐川橋梁を渡った。橋の真ん中から見る景色が絶景だった。天気も良く風もあまり吹いていなかったため、水面に風景が反射しており、とても美しかった。

国道沿いは交通量が多く立ち止まってゲームをプレイすることが中々出来なかった。その上、信号機がなかったり車道と歩道の接続がされていなかったり、道路や交通ルールの制約によって目当てのモンスターに近付くことが出来ないケースが多々あった。

ゴール地点へ近付き、モンハンNowのゲームマップと道順確認のために広げたGoogleマップと通り過ぎていく風景を頻繁に行き来しているうちに、周囲の景色の印象が少しずつ薄らいでいくことを実感した。

現実という名のオープンワールドとゲーム内のオープンワールドとGoogleマップのオープンワールド、合計3つの世界を行き来しながら、サーバが生成したデータに導かれて身体の移動を行い、ゲーム内でモンスターと相対するその時はデータ塊である装備を見に纏い仮想の身体を以て狩りを行う僕は複数のレイヤーに挟まれながらどこにも着地出来ずに揺らいでいる。

見えないだけで、すぐ側の田園の中や川の中洲に佇む巨大なモンスターの存在を夢想している。

水族館と薬草風呂を楽しむ

ゴール地点である世界淡水魚園水族館 アクア・トト ぎふは非常に見応えのある施設だった。

世界最大のリクガメであるアルダブラゾウガメが100年以上も生きることに驚かされたり、長良川に生息する魚たちやメコン川やアマゾン、アフリカに生息する魚など網羅的に世界の淡水魚を楽しめた上に、美濃和紙など岐阜の伝統工芸に関する展示などもあり、2時間くらいじっくり展示を見ても全く飽きることがなかった。

岐阜タンメンの本店で遅い昼飯を済ませた後、帰り道の途中にあった漢方サウナ養心薬湯へ立ち寄った。

複数の薬草が惜しみなく入っている湯は抹茶色で、匂いはメンソールのような爽やかな香りがした。店の名前にもなっている漢方サウナは薬草が使われているスチームサウナで、サイクリングで疲れた身体をじっくりと温めた。水風呂は地下水を汲み上げているらしく、しっとりとした水質だった。

秋風を浴びながら国道沿いを引き返し、時々の休憩中にモンスターを狩りながら大垣へ戻った。18時くらいにはすっかり陽が落ちていて季節の終わりを噛み締めた。

移動とは自分の意志を以て進む道を決定する行為である!

移動は都市設計や地形等の制約の上に成り立っている。自転車はゲームの世界に登場する森林や砂漠や沼地を走ることに適していない上に、生活拠点に近しい駐輪場で保管することを前提としているため、都市に依拠した乗り物である。

仮想空間にマッピングされたモンスターを追いかける時に信号やガードレールによる移動の制約が現実とゲームのギャップとして浮き彫りになり、ゲーム内のキャラクターの動きに身を預けると、ハンターとしての自分が現実の自分を少しずつ侵害しているように感じた。これは、主観を現実ではなく、仮想空間に移してしまっているからだろう。

身体の移動とは自分の意志を以て進む道を決定する行為であり、前回記事で執筆したChatGPTに示された移動や本記事におけるゲームマップを駆ける営みは、時間軸のあるシーンを映像のように連続して眺める行為と等しいという認識が今回のライドにおいても継続している。

狩りを伴うサイクリングを経て、主観の分散によってリアリティが消失するならば、視る対象を一つに絞ることが出来たら複数の仮想空間のレイヤーがそこに重なっていても身体感覚を維持出来るかもしれないという仮説が生まれた。近頃、Apple Vision Proの発表を受けて空間コンピューティングの話題を各所で見かけるが、多数のマップや位置情報が関連付けられたモンスターが一つの視界の中で結合した時、モンハンNowはどのようなゲーム体験になるのだろうか。

一寸先のことさえ予想が難しい複雑な世の中ではあるが、我々人類がスマホを羅針盤として移動する最後の時間に少しずつ近付いているのかもしれない。

常に漠然としていて曖昧模糊な未来を希望と呼びたい。

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