2021年の3月から新潟県立近代美術館で開催される「Viva Video! 久保田成子展」の情報が公開された。久保田成子(1937-2015)は、ニューヨークを拠点に活躍したヴィデオ・アーティスト。1970年代に映像と立体を融合させた「ヴィデオ彫刻」を発表し、その中でもマルセル・デュシャンの作品を参照したシリーズ「デュシャンピアナ」は高く評価されている。
自転車をモチーフとした作品の中で以前から紹介したかったのが、久保田の《デュシャンピアナ:自転車の車輪》(1983)だ。自転車の車輪部分に取りつけた小型モニターが回転する仕掛けは、デュシャンが注目した回転運動と視覚の関係を想像させる。とはいえ、久保田の作品は、映像の視認性の低下をものともせず、むしろ効果として受け入れてしまう潔さに、ポップな感覚を覚える。
展覧会の開催に先駆けて、新潟県立近代美術館の濱田真由美が『新潟県立近代美術館研究紀要』第17号(2019)に発表した作品調査によると、この作品はプロトタイプと位置づけられ、モーターの小型化などの改良とともに複数のバージョンへと展開した点が興味深い。
改良版にあたるのが、原美術館所蔵の《デュシャンピアナ:自転車の車輪1, 2, 3》(1990)であるが、この作品の映像部分にも異なるバージョンが存在するという。久保田は、作品を維持するための記録メディアの変更に際して、レーザーディスクによる「Synthesizer Landscape」、ベーターカムおよびDVDによる「Landscape for Green Installation」を制作した。その時々の関心に応じて、作家自身がこの作品をヴァージョンアップさせてきた形跡が、今回の調査により明らかになった。作品のオリジナル性を揺るがすような変遷に注目することで、久保田が付き合ってきたメディアの特性や書き換え可能な表現のありようをより深く考察する契機となるのではないだろうか。
ナムジュン・パイクと夫婦であったがゆえに、妻として見られることも多かった久保田成子。今回、新潟県立近代美術館から国立国際美術館へと巡回する日本初の回顧展は、その全貌をとらえる絶好の機会となるはずだ。女性と自転車をテーマとしたこの連載の余白に書き加えるならば、両美術館での企画者は女性で、私の盟友でもある。国立国際美術館では、2003年の移転後、杮落としの展覧会「マルセル・デュシャンと20世紀美術」で久保田の作品が紹介された文脈もあり、両館での独自の展開が楽しみだ。
- 濱田真由美「久保田成子ヴィデオ・アート財団における作品調査」『新潟県立近代美術館研究紀要』第17号(2019)52-58頁
- 濱田真由美「ヴィデオ・アーティスト 久保田成子についての調査ノート」『新潟県立近代美術館研究紀要』第11号(2011)17-31頁
どんな映像がどのように表示されたんだろうか?と思って検索してみると、いくつかビデオがありました。ご参考までに。