otakuhouseインタビュー

自転車に乗ってサウナに出掛けるBIKE2SAUNA Meeting #2 IBIで、自転車パートを企画したのがotakuhouseさん。その時は挨拶をしただけだったが、後にブログを拝見して驚いた。ヒマラヤの山岳地帯でのツーリング記事があったからだ。やがて厳冬期のフィンランドで自転車で北極圏を目指すという投稿。しかも、雪原のテント泊でサウナ巡りをするとか。その後も草原と砂漠のウィグルに出かけている。

軟弱ライド系の筆者にとっては、高山病や凍傷になりかねない極限の地を自転車で挑むのは、想像の埒外だ。しかも、ご本人は落ち着いた雰囲気の痩身優男、そのギャップに目が点になる。そこで、興味津々でインタビューを依頼したところ、快諾いただいた次第。以下は、オンラインでのインタビューで、1〜2日ごとに質問と回答を繰り返して進行した記録だ。

赤松: otakuhaouseさんのブログやツイートを見ると、国内だけでなく海外でも凄い場所でライドされているようで、なんでこの人こんなところに行ってるんだろうと不思議に思っていました。なにしろ、私は綺麗で平坦な舗装道路を快適に走りたい派なので。そんな野次馬的な理由でインタビューをお願いした次第です。そこで最初に、これまでのエクストリーム・ライド歴を簡単に教えていただけますか?

otakuhouse: まず確認なのですが、自分の中のちゃんとした基準で、安全であるという判断をした上でツーリングをしているし、エクストリームという意味では上がたくさんいるので、けっしてエクストリーム・ライドという認識はありません。とは言え、そんなことを言っても話が進まないので、赤松さんの文脈で言えば、例えば海外ツーリングがそれに当たるのかなと思います。海外ツーリングで言えば、台湾、アメリカ、ネパール、フィンランド、新疆ウイグル自治区をそれぞれ2週間〜1ヶ月くらいツーリングしてきました。

赤松: それは失礼しました。危険や違法を連想させる言葉でしたので取り下げます。一般的な人が行かない場所でのライドといった意味でした。この場合でも、現地の人は気軽に乗っているでしょうけどね。確かにotakuhaouseさんの海外ツーリングのことを聞きたいわけですが、それにしてもドロミテ(イタリアの景勝地)へのパック・ツアーとは随分事情が違うだろうと思うわけです。それでは、最近出かけられたウイグルには、どのようにフライトや宿泊を手配されましたか?自転車も日本から運ぶか、現地で調達しなければなりませんよね?

otakuhouse: 景勝地へのパック・ツアーと比較すると、まず行き先を決めて、ルートを考えて、それに合わせて飛行機を手配したり、国によってはビザの取得など調べる必要があり、ツーリング以外の部分で既にたくさんやらなければならないことがあります。ツーリング中もその日の宿やテントを張る場所を探したりと、やることは多いです。市内観光ではないので、自転車も何でもいいわけではなく、基本的に日本から運びます。とにかく面倒くさいことばかりです。

赤松: 面倒くさいことばかりというのは核心ですよね。それでも出かける何かがあるわけでしょうから。それは言葉にできるものでしょうか?

otakuhouse: 自転車ツーリングに限りませんが、何か意味のあることをしようと思うと、だいたい面倒くさいことになると思っています。面倒くさくない時間の使い方って、家でNetflixを見ながらビールを飲むとかでしょうか。そういう時間の使い方を否定はしないし、たまにはあってもいいけれど、自分には苦痛です。何か動いていないと気が済まないところがあり、そのはけ口が自分の場合、自転車ツーリングになっているんだと思います。

赤松: なるほど、簡単なことはツマラナイ、それだけでは十分ではない、ってことですよね。それは同感です。一方で、身の危険を感じたり、途方に暮れることもあると思うのですが、そのようなエピソードを紹介していただけますか?

otakuhouse: 危険な経験はないです。世の中はみんなが思うより安全だと思います。とはいえ危険を上手くかわしたと実感することは何度かあるので、危機感の全く無い人が僕のマネをしたら、場合によっては危険だったかもしれないと思います。一つ例を出すと、テントを張る時は、熊対策で食べ物や食器を全てテントから離しておくというのは常識ですが、アメリカのナショナルフォレストで朝テントから離した食べ物が漁られてるのを実際に経験しました。これがテントの中で、相手が熊だったらやっぱりヤバかったかなと思いますね。僕は心配性なので、事前に狂犬病のワクチンを打つとか、ハンドルに催涙スプレーを取り付けるとか、そういう危険や不安はコントロールするようにしています。

赤松: しかし、経験が少ないと対策や準備が難しいですよね。初めて海外ツーリングに出かける人は、どのように準備すれば良いのでしょうか? 定番の指南書がありますか?

otakuhouse: これはツーリングの世界での問題だと思うんですけど、定番の入門書とかはないと思います。世界一周とかしてる人は意外に沢山いるので、そういう人が残してくれるといいんですけどね。でも、旅人の性に合わないのか、ノウハウを残すとか、他人のためのアウトプットをしてくれる人が不足してるように思います。自分は行き先に関する本を探してみたり、似たような場所に行った人のブログから質問したり、想像できる危険についてネットで検索したりします。個人のメディアリテラシーと想像力に依存してるように思います。

赤松: となると、ハードルが高いですね。気軽な遊びじゃないから、当然かもしれませんが。それでは、簡単ではない海外ツーリングを始めたきっかけは何でしたか?

otakuhouse: ご期待通りの回答でないかもしれませんが、きっかけはありません。と言うより、特に行き先として国内と海外を区別してるわけではなく、普通の休みは国内で、連続して休めるときは海外に行こう、くらいの感じですね。日本は大きな国ではないので、自転車ツーリングをやっていたら、時間の問題で海外ツーリングを始めることになるのは、自分の感覚では自然なことです。逆に僕がアメリカとか中国の人間だったら、国内だけでも行き先に相当な数の選択肢があるので、海外ツーリングしてなかったかもしれません。

赤松: 国内では飽き足らず、ってことでしょうか。いや、もっと気負いがなさそうですね。行き先はどのように選んでいるのですか?これまた気の向くまま?

otakuhouse: 国内に飽きたわけでなく、まだまだ行きたい場所はありますが、連休が取れるならせっかくなので海外に行っておこう、くらいの合理的判断です。行き先は基本的にその時に興味がある場所の中で、①安全な場所であること、②SNSやブログ等で他人が見て面白いと思える場所であること、を満たすところを選んでます。他にも例外的な判断理由が入ることもあります。例えば新疆に行ったのは、もともとチベットで政治をやってた中共の人が新疆に移って、外国人の締め付けが厳しくなってるらしく、チベットみたいに今後は行けなくなるかもしれない、と思ったからです。

赤松: フィンランドは厳冬期でしたよね。これは雪ライドやサウナを意図してですか?しかもテント泊ですよね?

otakuhouse: サウナとスノーライドが目的ですね。あと航空券が安かったので。フィンランドは物価が高くて、ユースホステルでも高いのでテントを使いました。

赤松: ネパールについてはotakuhouse.orgに詳しいレポートがありますね。崖や岩場など随分と悪路だったり、何度も高山病になりかけたり…そのような状況だからこそ、意識が先鋭化して「危険な経験はない」に繋がるのではないかと思いました。そのようなことはないですか?

otakuhouse: 危険性は、場所そのものの絶対的な危険性と、自分の危機感に対する相対的な危険性、に分けられると思うので、意識の問題は大きいと思います。それが言語化したとき「先鋭化」になるのか、何になるのかは分かりませんが、とにかく重要な要素です。危険な場所に限らず、ツーリングは脳みその普段使っていない部分を使う感じがあると思います。

赤松: アメリカ西海岸のツーリングもサイトに記事を書かれていますね。クルマ社会と思いがちなアメリカでも自転車が盛んなことに驚きます。アメリカの自転車文化や生活様式で何か感じられたことがありましたか?日本と大きく違うこととか?

otakuhouse: 日本の自転車文化と生活様式って言うのは、シティサイクルとスポーツバイクの境界がハッキリ分かれてて、かつ、スポーツバイクはロードバイクばかりで、たまにオフロードバイク、みたいな感じだと思うんですが、それと比較すると確かに大きく違いましたね。まず、生活の足とスポーツバイクの境界線は薄い感じでした。国自体のスケール感が大きく移動距離が長くなりがちなので、日本的なママチャリは使いにくいんじゃないでしょうか。それと、お店で売っている自転車は、サーリーのクロスチェックのようなバランス感覚の自転車が多い印象ですね。ピュアなロードバイクは少なかったです。グラベルが多かったり、道があまり綺麗じゃないので、ロードバイクは使いにくいのかもしれません。

赤松: 台湾のことも知りたいのですが、暑さ以外は日本に近いのでしょうか?

otakuhouse: 日本に近いと思います。特に街の密度や道路の具合が似ていて、自転車でツーリングする分には外国であることを意識することは、ほとんどなかったですね。中国とは大違いです。日本企業も多くてセブンイレブンでヤマトの配達員が休憩していたりします。ナイトマーケットとかに行くと外国感を感じます。

赤松: 時系列逆順で尋ねましたが、最初は馴染みやすい場所から次第に難易度を上げているようですね。となると、次に赴くのは更に非日常性が強い場所になるのでしょか?あるいは、異なる基準がありますか?

otakuhouse: 意識的に難易度を上げているつもりはなく、その時たまたま興味がある場所に行ってるだけですが、言われてみればそういうところはあるかもしれません。少なくとも今の健康で失うものがないうちに、色々やってみようという気持ちはあります。あと、ツーリングに行くことで、「このくらいだったら安全そう」、という範囲が自分の中で広がって選択肢が増えるので、結果的に、難易度が上がっているのかもしれません。
ご質問に戻り、次の行き先が更に非日常性があるかですが、必ずしもそうならないと思っています。刺激的な体験であれば個人的にはなんでもいいと思っています。アドベンチャー色のあるツーリングは、そのための手軽な方法の1つなので、選んでしまいがちですが。

赤松: わざわざ出かけるからには退屈な場所は選ばないでしょね。ちなみに、英語が通じない場所もあったと思いますが、スマートフォンの翻訳アプリなどでなんとかなりますか? さらに携帯電波が届かない場所がありましたか?

otakuhouse: 比較的先進国に行っているとはいえ、インターネットも英語も使えない状況はたしかにあります。今ところ雰囲気で乗り切っていますね。インターネットがあっても、機械学習用の対訳コーパスが無い言語は翻訳アプリが使えませんし、最終的に雰囲気でごまかすところは絶対出てくると思います。ただ、昔読んだ世界一周している人の書籍で、アフリカで死にかけた経験が書いてあったんですが、その人がたまたまフランス語が話せたから助かったようなエピソードだったので、言葉が通じないのは決して安全とは言えないと思いました。

赤松: なるほど。ルートや宿泊、食事などはどのようにして情報を得たり、判断したりするのですか? 日本で得られる情報は限られるますよね? 現地の人にどんどん話しかけるのが重要になりそうですね。

otakuhouse: それを説明すると、長編のブログの記事が書ける量の情報になって、インタビュー記事の1トピックには不適切なので大幅に省略してご回答します。ツーリングで必要な情報には内容や行き先によって、現地の人の方が詳しいことと、事前にネットで調べた方がいいことと両方あります。なので現地の人に聞くことと、インターネットリテラシーの両方が必要と思います。

赤松: それではそれは記事に期待しますね。最後の質問として、苦労や面倒、時には危険もありながら、海外ツーリングを続ける動機や原動力は何ですか? これまでの言葉の端々に現れていると思いますが、改めて聞かせてください。

otakuhouse: 刺激を受けていないと苦痛なので、いつも動き続けていたいという気持ちがあり、自転車はそのための手段として丁度いいからです。この度はインタビューありがとうございました。自分のことながら考えが及んでいなかったところを考えられる、いい機会になりました。

赤松: 理屈ではなく衝動ってことですね。それはなんだか嬉しい回答でした。今後も素晴らしいツーリングとレポートに期待しています。ありがとうございました。

Leave a Reply

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です