「いつか見に行くペナン島の自転車」は「ようやく見に来たペナン島の自転車」になった。先の記事から3,133日、8年半も経っている。香港での乗り継ぎを含めて半日以上のフライトで到着したのは深夜。翌朝早くに宿の近くでシェア自転車を借りてを漕ぎ出す。目的地までは1km少々。大英帝国時代から続く多国籍商業都市ジョージ・タウンの街を彷徨いながら、憧憬の地を探して進む快楽。
ペナン島のシェア自転車はLinkBikeと呼ばれ、スマートフォン・アプリで利用する。SMSではなく電子メールでユーザ登録ができるのが有り難い。1日(24時間)の基本料金は5RM(5リンギット、約190円)で、30分以内なら何度利用しても追加料金はなく、30分を超えると1時間ごとに1RM(約38円)かかる。ステーションの設置密度が低いものの、料金が安いので何時間か借り続けても良いだろう。
LinkBikeは典型的なシェア自転車。重くて頑丈で、サドルは上がらず、クラク長は短い。つまり、戦車。短距離の街乗り想定で、前カゴや駐車用ロックが付いている。しかし、整備が悪く、ブレーキの効きが悪かったり、スタンドが傾いたりする。日中は交通量が多く、合法な路上駐車で道幅に余裕がないので、ゆっくり走るしかない。ロード・バイクでも電動アシストでもないのだから、当然か。
さて、最大の目的であったErnest Zacharevicの「Little Children on a Bicycle」は、変わらずそこに存在していた。驚きも感慨もなく、街角で知人に出会ったかのような感覚だったのが、我ながら不思議。自転車や周辺は少ながらず変化しているものの、全体の印象としては2012年の制作当時と変わらない。別の場所にある巨大な水色の少女は色褪せていたので、こちらは適宜修復しているのだろう。
世界遺産でもあるジョージ・タウンの古くからの街並みは見て回るだけで楽しい。その中心地の1km四方ほどのエリアに点在する壁画の数々。観光客が集まっている目立つ作品もあれば、路地裏に潜んでいる作品もある。大小様々、玉石混淆であり、単なる落書きもあれば、商店の宣伝もある。アートとは何ぞやと考える宝探し気分。その中から自転車モチーフの作品をいくつか取り上げる。
VR(仮想現実)嫌いにしてAR(拡張現実)好きの筆者としては、壁に描かれた「だけ」の絵画はルーブル美術館の「モナ・リザ」のようにつまらない。男女二人乗り自転車にしても壁に描かれた「だけ」ながら、手前の鉢植えを引き込んで物語を醸し出している。逆に、19世紀末の大富豪の邸宅前に置かれた自転車は、インディゴ・ブルーに溶け込む絵画に見えてしまう。
このようにジョージ・タウンでは多種多様な壁画によって現実と虚構が混交する。この街自体がマレー文化、中華文化、インド文化、植民地文化の雑多な集積だ。そしてストリート・アートが街の皮膜を多層化する。熱帯雨林の高温多湿な気候、時には激しい雨が降り、時には晴れ上がる。30℃近い気温に汗ばんでも、自転車を走らせれば爽快。古くからの交易の要所、マラッカ海峡もすぐそこだ。











