快楽原則 17: ルアン・パバーン

11月初めにラオスのルアン・パバーン(Luang Phabang)に出かけた。アジア最後の秘境ともメコンの宝石とも呼ばれるラオスの、もっとも有名な観光地だ。日本の日常とはかけ離れた、ゆったりとした時間が流れる。ダルな快楽原則に身を任せてボートやトゥクトゥクでのんびり遊覧しながらも、マウンテン・バイクを借りて街地や郊外を走ることも忘れなかった。

ユネスコの世界遺産に登録されてたルアン・パバーンの旧市街地は、2つの川に挟まれた細長いエリアで、中央部は丘になっている。仏教寺院や飲食店が立ち並び、民家のようなホテルも多い。高層建築は皆無で、伝統様式と植民地様式が混在する。それほど広い区域ではないので、自転車ならすぐに回ることができる。交通量は少なく、路面は良好ながら、急な坂道もあるので要注意。

中心地を離れると次第に生活感が溢れてくる。クルマやスクーターが多く、自転車はあまり見かけない。路面が荒れていたり、砂埃が多かったりもする。朝夕のラッシュで交通量も増えても、ベトナムのような過激な過密さはない。ただし、信号機が一切ないので交差点を渡るのは一苦労。変形ラウンドアバウトにも困惑する。とは言え、ゆっくり進めばなんとかなる。郊外でものんびりしているからだ。

ところで、観光案内所かと思って訪ねたUXO Lao Visitor Centerは、巨大な爆弾が所狭しと並んでいて驚かされた。ラオスはフランスの植民地から独立後に内戦が続いたことが知られている。それは冷戦での大国の代理戦争であり、秘密裏にアメリカが大規模な空爆を行っていた。その残骸が集められており、不発弾の処理が今も続いていると言う。平穏な雰囲気の裏にある過酷な歴史に戦慄する。

市街地に飽きてきたところで、川辺の船着場からフェリーに乗って対岸に渡る。この地域のメコン川には鉄道橋しかないので、船で往来するしかない。フェリーも簡素な屋根が付いた鉄板台でしかない。勝手に乗り込めば、係員が料金を集めに来る。人や車両で満杯になれば出航。穏やかな川面を風に吹かれて渡るのは、ちょっとした観光気分。

対岸のチョンペット(Chomphet)地区は完全な田舎。お洒落なカフェは皆無。屋台や民家はあるものの、少し進めばそれもまばらになる。舗装道路もすぐに砂利道が多くなる。舗装工事中であっても通行はできる。迂回路がないからだ。しかし、グラベル気分でペダルを漕ぐのは楽しい。緑豊かな山と谷の中を適度なカーブが続き、時には小さな素朴な集落を通り過ぎる。

やがて山間を進みアップダウンが激しくなる。ギアとチェーンの噛み合わせが悪く、押し歩くことが多くなる。暑くはないものの、体力を使うので汗ばんでくる。やがてペット・ボトルの水が尽きたところで万事休す。道を引き返すことにした。それでもモバイル・インターネットが通じていたことと、雑貨屋の軒下で水を飲めたことで随分と気が楽になった。

ルアン・パバーンに行く前に、村上春樹の紀行文集「ラオスにいったい何があるというんですか?」を知人に勧められた。しかし、そのタイトルが暗示をかけるのか、読んでもさっぱりイメージがわかない。ただ、それは10年以上前の話だった。有名な托鉢はメイン・ストリートでは完全に観光イベントと化していた。いや、オマエも観光客だろ?と言われれば返す言葉はない。

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