クリティカル・サイクリングのWEBサイトは、この10年間で膨大な量の記事を積み上げてきた。2016年に活動が始まり、今年で10周年を迎える。記事はすでに1000本を超え、「読む」という行為そのものが、ある種の運動量となっている。
そこで私たちは、その「量」を、別のかたちで読み返せる装置として作品《Critical Browser》を制作した。
2025年制作。メンバー:福井悠人/寺田博亮/ジクリ/小峯愛華

きっかけはロマンとしての閲覧装置
きっかけはシンプルだ。今年度で退任される赤松教授に向けて、これまで蓄積された記事を読めるものとして贈りたいと思った。
QRコードでアーカイブに飛ばすだけなら簡単だし、普通のブラウザでももちろん読める。だがしかし、今回は一味違う。
クリティカル・サイクリングがずっと扱ってきたのは「自転車に乗ること」そのものの批評であり、ならばアーカイブへの入口も、自転車であって欲しい。
マウスというインターフェースを、自転車というインターフェースに置き換える(ネットサーフィンならぬ、ネットサイクリング)。
いわゆるロマン作品である。
仕組み:ペダルでスクロールし、ブレーキで選ぶ
《Critical Browser》は、クリティカル・サイクリングの全記事を「自転車で閲覧する」ための専用ブラウザだ。
- ペダルを回転させると画面が下にスクロールする
- 逆回転させると画面が上に戻っていく
- ブレーキレバーでスクロールを止め、記事を選択する
- ハンドルに付いたボタンで記事を開閉する
操作の狙いは、単に変わったUIを作ることではない。
身体の動きと情報の移動が、普段自転車に乗ることと直結することである。

体験:読む行為の「質量」を感じる
一般的なブラウザだと、記事は軽い。無限に開けるし、読み飛ばしもでき、指一本で叶う。
一方で自転車だと、記事は重い。進むには漕がないといけないし、戻るには逆回転が必要になる。ブレーキを握ると止まる。
その手間こそが心地よい。爽快な操作感があるし、スクロールが前に進む感覚として立ち上がる。読んでいるはずが、どこか走っている。インターネットの環境をサイクリングしている感覚である。
結果としてこのブラウザは、クリティカル・サイクリングが蓄積してきた情報の量や重さ。つまり、その「質量」を体感可能なものにする。10年分のアーカイブを、身体で読むための装置になったと思う。
あとがき
自転車は速く走るほど景色が流れる。
《Critical Browser》もまた、速くスクロールするほど文章は読めなくなる。ここが少し意地悪であり、それでもって正直なところ。
景色が見たいなら、速度を落とす必要がある。
ブレーキを握って、止まって、開いて、読む。
自転車で読むのは非効率だ。そんなことは分かっている。だからこそ、10周年のアーカイブに対して、効率とは別の私なりの敬意の払い方である。