デヴィッド・バーンのサイクリング・プレイリスト

稀代の音楽家にして熱心なサイクリストであるデヴィッド・バーン(David Byrne)が、音楽サイトNME.comでサイクリング用のプレイリストを公開していた。自宅があるニューヨークでもツアーで回る世界各地でも必ず自転車に乗る人だから、どんな曲を聴きながら自転車に乗っているのだろか? 全40曲、2時間20分。多少なりともお聴きいただいた上で、この後をお読みいただければ幸いだ。

どのように感じられただろうか? 筆者の印象としては、かなり拍子抜けだった。一言で言えば「緩い」。緩いのが悪いわけではないけれど、サイクリングから連想される爽快感や疾走感は希薄だ。全般的な傾向としてテンポは遅め、曲調は静かで内省的、女性フォーク系が多く、弾き語りや手作り感が目立つ。大御所はわずかで、若手や無名の人が多い。実験的で越境的な要素も少なからずある。

最近は炎天下の毎日。そこで早朝に1時間ほど自宅の周辺を回ってみた。プレイリストの音楽を聴きながらのサイクリングは可もなく、不可もない印象。もともと筆者が音楽を聴きながら自転車に乗らないせいもあるだろう。次第に音楽に注意が向かなくなる。ただ、それが狙いかもしれない。サイクリングの邪魔をせず、そよ風のように流れている街乗り自転車のための音楽だ。

やがて日差しが強くなり、汗ばんでくる。自宅に戻り、軽くシャワーを浴びる。テラスに水を撒き、パーゴラの日除けの下で休息。安楽椅子に腰掛け、身体を伸ばす。傍には冷たい飲み物。これでこのプレイリストを流せば夢心地。それではまるでイージー・リスニングではないか。まさしくヴィレッジあたりの古びたカフェならピッタリだろう。自転車は何の関係もない疑惑。

考えてみれば、デヴィッド・バーンは長い音楽キャリアの中で自転車を題材にしたことはないはずだ。あれば教えて欲しい。もちろん、筋金入りの熱心なサイクリストとして知られているし、「Bicycle Diaries」という自転車日記を刊行している。自転車スタンドをデザインしたこともあるし、映画の自転車シーンを繋いで短編映像を発表したこともある。だが、自転車音楽はない。

David Byrne’s A Poem to Cyclists
国際グリーン・エネルギー経済会議で上映された短編映像

これはもう一つの自転車音楽家の頂点たるクラフトワークとは対照的だ。クラフトワークの自転車はロード・バイクであり、強靭で正確なビートに貫かれた全曲自転車レースのためのアルバム「Tour de France」を制作している。自転車に熱中するあまり、音楽活動が停滞し、嫌気がさしたメンバーが脱退している。それでも先鋭的なロード・バイクをデザインするフリークぶり。

Kraftwerk / Tour de France

一方、プレイリストが掲載されたNMEの記事でデヴィッド・バーンは「バンド全員が折りたたみ自転車を持っていて、その地域を探索するために乗っている」と発言している。メンバーも自転車好きであることを祈ろう。ともあれ、都市から都市へと旅をし、都市で生活する者の日常の友としての自転車だ。メンバーと一緒に走ってもトレイン走行はしないだろう。おのおの気ままに街を散策するに違いない。

ところで、間もなくデヴィッド・バーンが来日する。サマー・ソニック2026に出演するためだ。本人もバンドも折り畳み自転車を持参しているに違いない。真偽不明ながら、自転車に乗りながらならインタビューに応じるかもとの話もある。残念ながら、筆者はその期間は海外にいてままならない。会場近くでプレイリストを流しながら、自転車で周回してはどうだろう? 幸運を祈る!

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