テイチライド 02:低地をライドする

アカウントを作る

コロナ禍に入った年の夏に自転車を購入した。納品日に合わせ、自転車専用のInstagramアカウントを開設し、写真を投稿し始めた。アカウント作成の主な目的は、情報収集と自身の情報発信である。普段使いのアカウントでは投稿が混在するため、自転車専用アカウントを作り、情報収集を効率化したかった。また、このアカウントでは、TOKYOBIKE MONOという日常使いの自転車との向き合い方を発信する場としたいと考えた。

Instagramに投稿し始めた頃の写真。街角に停めた自転車の写真を撮ることが多かった
Instagramに投稿し始めた頃の写真。とりあえず街角に停めた自転車の写真を撮ることが多かった。

アカウント名は「teichi ride」(テイチライド)とした。初見では意味が不明瞭だが、由来を知ることでイメージが膨らむアカウントを目指した。

東京低地という言葉

アカウント名を考えるとき、まず住んでいるエリアを含めようとした。私が住む「東東京」は城東七区(台東区・墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区)を指すことが多い。東東京というとき、「下町」「人情」「伝統」のイメージがつきまとう。下町紹介アカウントにするつもりもないので別の言葉を探そう。

漫画家かつしかけいたの「東東京区区」(ひがしとうきょうまちまち)という東東京を舞台にしたマンガの冒頭で、主人公の一人である大学生、サラが図書館で論文を書いている。「武蔵野台地と下総台地に挟まれたこの地域は「東京低地」とも呼ばれ、古くから河川を利用した水上交通の要衝だった」と始まる。

私の走行エリアには北区や川口市など行政区を超えた範囲も想定されるため、行政区分ではなく地形に基づく「東京低地」という呼称が適切だと判断した。そのため「低地」をアカウント名に採用した。低地という少し弱めの言葉を使うことによって、自転車に乗る時のスタンスも伝わると考えた。「速さ」「高さ」を求めない、地理的な探求を重視する姿勢を表現している。

赤色は城東七区、緑色は私が思う東京低地(地理院地図Vector(国土地理院)を加工して作成)

自転車で走る

長年この低地の西端に住んでいたが、東東京のエリアは通過する程度で、東の端のことは分からなかった。自転車に乗るまで、街と街のつながりや距離感を把握できていなかった。乗り始めた頃は在宅勤務中であり、終業後に地図を見ては、名前を聞いたことがある街や家の近くの道がどこにつながるか試したりした。しかし次第に、イメージと異なる側面に気づくことになる。

東京低地=平らな土地のイメージとは裏腹に、走行すると頻繁に坂道に遭遇する。主に川や運河を渡る橋である。東西方向への移動では、隅田川、荒川、江戸川といった主要河川に加え、中川、綾瀬川など多くの支流や運河を越えることになる。南北方向への移動では、江戸時代から作られているいくつもの運河を越える。運河に架かる橋は比較的負担が少ないが、大河川では堤防が高く、車道が自転車通行禁止になっていたり、歩道も九十九折りのスロープで降りる必要があり、意外な高低差を生む。


隅田川(左)と荒川(右)に挟まれた江東デルタ地帯の陰影起伏図。川や運河沿いの土地が盛り上がっている(地理院地図Vector(国土地理院)を加工して作成)
隅田川(左)と荒川(右)に挟まれた江東デルタ地帯の陰影起伏図。自然河川の隅田川の周りには自然堤防ができているが、荒川や運河沿いは水路の脇だけ盛り上がっている(地理院地図Vector(国土地理院)を加工して作成)

大きな河川の堤防や橋は、予想外の上り坂となる。私が自転車に乗る目的に「高さ」は求めていない。そのため、乗り始めた頃に使っていた走行ログアプリ「Strava」で「獲得標高」が増えることに嫌気が差し、使用をやめた(Stravaに罪はない)。それからはGPSログアプリと紙の地図に走った記録を残している。

「東京都 区分地図 東京23区 全図」(昭文社)に書き込んだ走行ログ。

東東京は実質的に堤防に囲まれた町の集まりである。平坦な低地という言葉のイメージとは異なり、橋を渡るたびにアップダウンが発生する。川や運河を避けて走ることはできず、橋との付き合い方がテイチライドの重要な要素となっている。目的地もなく自転車で漂いたい時は、川をどの橋で越えるかを考えて行き先を決めることもある。

古代東海道から荒川の堤防方向を移した写真。堤防によって道が寸断されている。
古代東海道から荒川の堤防を撮った写真。荒川によって道が寸断されている。

川や橋の話しはまだまだし足りないので、別の機会に。

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